からからと回る風車
こたきひろし

子供の頃
隣家の製麺工場は水車が動力源だった
製麺工場は夫婦だけで営まれていた小さな工場

水は川から引かれていた
私の産まれ育った家は貧相で粗末な藁葺屋根の家だった
家の僅かな庭の前には細い道があった
その道の直ぐ先は土手になっていて、その先の堀りを水が流れていた
その水は隣家の水車を回していた。
堀の向こうは竹林になっていた
その竹林が切れる辺りに山肌に沿って川が流れていた

その川から泳いで来るのだろう
名前のわからない魚が堀の水に逆らって泳いでいたり、水の流れに乗って泳いだりしていた

土手には我が家ように水場まで下りる道筋があって
母親と父親はその道筋をおりたりのぼったりした 水で野菜を洗ったり汚れた農具を洗ったりしていたのだ
土手には我が家で植えた無花果があって、季節の度に実をつけた

からからと頭の中で回る風車
思い出が記憶の中でクルクルと回りだした

隣家は貧農ばかりの周辺で、田んぼと畑を持ちながら
製麺業を営んでいた
周辺で唯一三輪自動車を持っているくらい
裕福な家だった

からからと頭の中で回る風車
風が止んで
風車は回らなくなった

他に思い出は何もなくなかったからだ。


自由詩 からからと回る風車 Copyright こたきひろし 2021-05-22 08:16:35
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