からからと回る風車
こたきひろし
子供の頃
隣家の製麺工場は水車が動力源だった
製麺工場は夫婦だけで営まれていた小さな工場
水は川から引かれていた
私の産まれ育った家は貧相で粗末な藁葺屋根の家だった
家の僅かな庭の前には細い道があった
その道の直ぐ先は土手になっていて、その先の堀りを水が流れていた
その水は隣家の水車を回していた。
堀の向こうは竹林になっていた
その竹林が切れる辺りに山肌に沿って川が流れていた
その川から泳いで来るのだろう
名前のわからない魚が堀の水に逆らって泳いでいたり、水の流れに乗って泳いだりしていた
土手には我が家ように水場まで下りる道筋があって
母親と父親はその道筋をおりたりのぼったりした 水で野菜を洗ったり汚れた農具を洗ったりしていたのだ
土手には我が家で植えた無花果があって、季節の度に実をつけた
からからと頭の中で回る風車
思い出が記憶の中でクルクルと回りだした
隣家は貧農ばかりの周辺で、田んぼと畑を持ちながら
製麺業を営んでいた
周辺で唯一三輪自動車を持っているくらい
裕福な家だった
からからと頭の中で回る風車
風が止んで
風車は回らなくなった
他に思い出は何もなくなかったからだ。