藤の花
山人

 クジラの胃の中で溶け始めたような、そんな朝だった。朝になりきれない重い空気の中、歩き出す。歩くことに違和感はないが、いたるところが錆びついている気がする。明るい材料は特にないんだ。アスファルトの凹んだところのわずかな水たまりに目を落とす。もちろん、こんな、不毛な一人語りはどこにも行けない河原の石だ。
 少し歩くと川の音が大きくなる。と同時に、鼻孔に突き刺さる芳香に心を奪われた。いたるところに絡みつく藤蔓の花の香りだ。その甘い香りに衝き動かされるものがある。いろんなものを失い、それに慣れてしまった自分が存在し、その負の安寧に包まっている自分がいる。直線的に永遠に続くかのような負の連鎖の中、それを切り裂くように、藤の花の香がいっとき私を解放した。


自由詩 藤の花 Copyright 山人 2021-05-22 07:05:28縦
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