ある朝
ゆるこ


早朝の総武線快速のホーム下り列車を待つ
自殺防止に設けられたガラスに鈍く、私の足元が映る
ふと、地元の塚に立つ墓標を思い返す
戦争で亡くなった英霊を祀る、神聖な墓標
その横に無縁仏を祀る墓が、点々としている
苔が生え、風がもしくは何かの悪意の元転がり、雨に溶かされ、削られている墓石たち

ガラスに鈍く映る私の足は
その、苔の生えた墓石によく似ていた
視界がどんどんと緑色になり、気づくと足に蔦のようなものがからみ
私を転がそうと悪意を持って這っている

死は恐ろしい。

両親の死に際を思い返す

うわ言のように何かの神様の名前を呼び、縋り、最期には誰か助けてと呟き
左足を切断され
腹を引き裂かれ、何度も内臓を触られ
透析を繰り返し死んでいった母や

酒浸り、仕事をクビになり、血液中に健常者の2000倍のアンモニウムが流れた状態で
肝硬変になり、苦しみながら死んでいった父

死は恐ろしい。
だから足掻くのだ。

記憶が私を生かす
どんな日々でも、私は生きねばならない。
あのような無様な姿で死にたくはない。

その恨みは私を焦がし、私の墓石のような足をまた動かす
美しい空、街並み、滲む朝日

今日もまた最悪の日常を美しむ一日だ


自由詩 ある朝 Copyright ゆるこ 2021-05-12 08:58:09
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