愚の原石
ただのみきや
不実日和
声は裂ける傘のよう
いつかの夏を絞りながら
蜜蜂の愛撫に
義眼を転がして
女の雨脚は
蜥蜴たちの抱擁をほどく
鞄の中で犯された
天使の羽根が舞う丘
青い爪を持たない
蝸牛の時間を捕食する
蓋を閉め忘れた
心臓の濁った声
発芽した苦いスプーンが掘り出した
冷やかに括れて行く人参の
陰から覗いている
ああ家族たち
数珠繋ぎの顔顔顔
酸性の小言
毛虫が食むような痒みにより
剥離した炎その 素顔すら
骨董品のペルソナだったのか
ミニスカートの蝶
ビリヤードのキュー
強制朗読による凌辱と
燕のように行き来する子供たちの舌に
供物とされた耳で
太陽と風は石化し
サイコロは一斉に瞑目する
今にも殺されそうな服を着た
金色の午後は竿の先に引っかかったまま
髭剃り後の静かな月のよう
手触りのないナイフが
水の上で狂い出す
欲しいのか
もっと欲しいのか
揺らめく油膜から
空は散弾を浴びせかける
肖像
桜や木蓮は黙ったまま開き
樹々の芽吹きは息のように淡い
川は光を奏でている延々
同じ旋律と手拍子で
風はまだ少し冷たく
時折ごうごうと耳孔を覗き込む
微かに霞んだ青空へ
血のような
一滴の情念――
すぐに煙のよう
ほどけ うすめられ
窓硝子に迷い込んだ顔
覚醒剤と睡眠薬がせめぎ合うような
春は立ったまま頬杖をつく
ひょう
手稲山はまだ雪を残している
万年雪という訳ではないから
それももうまもなくだ
ものごと早いか遅いかを
不平等だと思うより
昔気質に定めとか運命とか
民主的ではなく
平均的でもない
現われては消えて行くものたち
見つめられ惜しまれる花
知られないから惜しまれない花
なにも惜しまない花
生は死の縁飾り
ささやかな諦念の紅を差す
美の倒錯に揺らいでばかり
――たったいま
雹が降った
開いたばかりの桜の上に
休日の朝
休日の朝の公園は
子どもと老人のもの
大人たちは寝ぼけてキッチンにいるか
まだベッドの中
子どもになって
公園で遊ぶ夢を見ている
老人は昼下がりに若き日の
仕事に精を出す夢を見る
子どもだけが今を
少し背伸びしただけの今の自分を夢に見る
休日の朝の公園を
わたしは夢に見る
《2021年4月25日》