ネノラク
道草次郎
竪琴がある。
竪琴とは複雑なあなたとわたしと、それから春の優しい鳥と。
風がある。
なぜ、風が惑星の
裳裾
(
もすそ
)
をかゆそうに笑いながら縦走するかは、誰にもわからない。
竪琴を納める墓穴という空間と、風という経過を宥める時間と、それらがともにリズミカルにのたうつ無底の揺動とが有る。
現今は最果ての
刻
(
とき
)
と溶融し合う。
一切が統一を忘失しつつ、そうでありながら、統一に取り込まれている一切の形骸がそこには坐っている。
竪琴は置かれ、風は走る。
それで、何が起こるというのだろう。
それは、解答ではなく問いとして現象展開する一つの
大渦潮
(
メイルシュトローム
)
。
掻き鳴らす幾本かの偶然の為に世界は沈黙する。
振動し、伝播される花粉めいた魔術。
必然のつばきをのむ、外耳。
竪琴と風と、その他諸々。
宙
(
そら
)
に張り巡らされた蜘蛛の糸に煌めくしずく、ありかけの月にかかるもや。
生まれながらに老成の
音律
(
しらべ
)
。
其れを、人は
音
(
ネ
)
ノ
樂
(
ラク
)
と呼ぶ。
自由詩
ネノラク
Copyright
道草次郎
2021-04-24 07:54:12