すべては
道草次郎

すべては過ぎていきます。

書こうかと何度が筆をとり、書けぬままにそれをおき、また筆を手にして動けなくなる。そんな日々でありました。もう何を書いていいのやら、だいぶ前から色んなことが煮詰まっているせいかよく分かりません。苦しんでおられるのは感じます。何に苦しんでおられるのか、ぼくにはその全部が分かりませんが、かなりの部分が分かるような気もします。ですがやっぱりそれは錯覚で、ちっとも分かっていないのだとも思います。しかし分かる分からないなど、どうでも良いですね。言えるのは、なぜかいつも帰ってきてしまうという事です。

すべては過ぎてゆきます。

ある場所である体験をしました。そこには色々な人がいて、驚くことに中学の時の同窓生もいました。その人はぼくの本名が比較的珍しいこともあり、自己紹介の時にピンと来たようで話しかけてくれたのです。その人はかつて推しも押されぬ陸上選手だったのですが、過日の面影はすでに無く、ビックリするほど髪の毛が白くなっていました。きっとぼくの方だって相手からはそう見られているのだと思い、なんだか時の流れが恐ろしくなりました。

すべては過ぎてゆきます。

優しくしてくれる人もいました。その人が朴訥にプロ野球の話などをしてくれたりするのを聞くのをぼくは好きでした。その人から飴を貰った日は、河原に咲くスイセンの花もどことなくいつもより美しく見えたものです。

すべては過ぎていきます。

ぼくはきっと変われませんし、今は、いくつかの会社へ履歴書を送って連絡待ちの段階です。上手くやれそうな見込みなど全くありませんし、同じ間違いを繰り返すかも知れません。不安というか殆ど諦念に近い気分です。諦めた気分になったり、かと思ったらすべてを諦めることのおそろしさに怯えたり、一日寝てしまったり、せめて死ぬ前にキルケゴールだけはいくらか読んでおこうと思ったりしています。

すべては過ぎていきます。

傲慢は汗をかきません。
空っぽの青空にだけ未来は流れ込みます。
何もかもがとても懐かしく思え、ただ、時は過ぎていきます。

すべては風になります。


散文(批評随筆小説等) すべては Copyright 道草次郎 2021-04-21 08:45:55
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