「さっき駅前の横断歩道で…」
Lucy
押しボタン式の信号が青になったので、
数名の幼児を連れた保育士さんとおぼしき人が声を掛ける
「さっ、渡るよう」
すると先頭の子どもが尋ねた
「どうしてわたるの?」
すかさず若い保育士はこたえた
「渡りたいから」
それでいい
答えは明快
渡りたいから
いつもそれがわからなかった
点滅する青信号の前で
逡巡していた
どうしてわたるの?
何故渡りたいの?
本当に渡りたいの?
渡った先になにがあるの?
どんな目的があり意義があるの?
考えている間に
信号は赤に変わり、
タイミングを逃してばかり
あらゆる川に架かる橋で
海で 空で 国境で
或いは旧い時代と新しい時代の狭間で
違う世代や異性や職種の違い
学歴 職歴 民俗 宗教 政治的主張 価値観の違い
あらゆる属性に架けられようとする橋のたもとで
立ち止まっていた
渡れないでいた
ただ渡りたいから
それだけでいいのに
さっき駅前の横断歩道で
園児たちとすれ違いながら
わかった気がして