よっつの梯子
AB(なかほど)
● (曙)
薄暗い部屋の中
光のはしごがすうっとかけられ
それは
雨戸の隙間から漏れていて
僕はふとんから起き出て
手を翳した
掴むことはできない
ああ それでも
光に触れることができる
また手を翳して
塵に降る光を奪ってみたり
口を開いて飲み込んでみたり
● 梯子
屋根裏部屋には
消しゴムの標本があるって
かりふぉるにあおじさんが
声高々に自慢してた
その中に
砂消しもあるんやろかと
梯子に右手をかけると
親指がちょとだけ(約1センチ)
短かくなった
そういえば
もうそろそろのはずなのに
戻ってこない
(もちろん僕の彼女のことではなくて
かりふぉるにあおじさんのこと)
● 大きく腕を広げて
指先のその指先の紡ぐ白
伝えたい言葉が先に消えてゆく
自分の主張を伝える手段として安易に詩を使っちゃいけない、とかなんとか、どっかで見たような気がする。けれど、もちろん「僕」の伝えたいことは主張なのかパッションなのか追憶なのか区別はつかない。凡庸なるかな。壊れそうなほど繊細な世界を紡ぎだす言葉を連ねる人には強い羨望とともに、肩をわしづかみにしてでもこの世界に引き止めなければ! という気持ちに駆られる。言葉だけではない。その表情、声、指先、毛の震えまで、
いつかは僕もそこに行くよ。解っているつもりだよ。でもさ、
そんなふうにしながらも、またひとつ消えそうな、
昇るだけの梯子の上で
君の方が先に夕陽になって消えた
● あれやこれやの言い訳ばかりで
きのう
かわした約束を忘れた君のほうが
よっぽどまともなこころを持っている
ずっと
気づかないふりをしている
僕のほうがうそつきだ
晴れているかい
君のこころは
雲の隙間からチンダルの梯子
その光に名前をつけたら
翼をひろげるように
きのうかわした約束は
僕も忘れた
そんなことより大事なことを
まもるために