sonnet
朧月夜
孤独を癒すために、水を飲む。
そのコップにはかつて、一匹の魚が棲んでいた。
それを汚らわしいと思う?
もちろん、水は汚穢などではなく、清澄そのものだった。
いつか生きていたことの証――
それを誰が知り、誰に伝えると言うのか。
魚の死を、取り立てて口にするものなどいない。
また、魚は死んだのではなく、どこかへ去っただけなのかもしれない……
わたしはひとり孤独を癒すために、
水を飲む。その水が清いものなのかどうかなど、かまいはしない。
わたしはただ、暗い部屋の中にあるランプのように、寂しいのだから。
一匹の魚の存在。それは非在の象徴のようで、
暮れ方の、短い夕日のオレンジ色を思い起こさせる。
一つのコップのなかに棲んでいた魚を、いつか誰かは、追悼したのだろうか?