頭痛の小悪魔
ただのみきや
週末
雨はガラス越しの樹木を油絵に似せ
開きかけた梅を涙でいっぱいにする
雨は河住まいのかもめを寡黙にし
水面の泡沫は作り笑いに変わる
だが雨は歌っている
運命のように 否
運命論者の俯いた青い睫毛のように
人気者
誰が蹴ったかサッカーボール
河を下って流れて行くよ
ドリブル・ドリブル・リフティング
河はどこまで運ぶのか
きっと海まで運ぶのさ
ドリブル・ドリブル・リフティング
波のヘディングかもめが止めた
ゴールはいったいどこにある
ドリブル・ドリブル・リフティング
ボールを取り合うイルカたち
青い海原ジャンプして
ヘディング・ドリブル・リフティング
空から満月見下ろして
「ボーズ おまえ何処から来た 」
ヘディング・ドリブル・リフティング
「おれはいつだってここさ
おまえこそ試合を見に来たおのぼりさんだろ 」
ドリブル・ドリブル・リフティング
中身は空っぽ角はなく
ほどよい弾力派手なリアクション
ドリブル・ドリブル・リフティング
みんな大好きサッカーボール
地球は転がるボールの上を
ヘディング・ドリブル・リフティング
空気の抜けたサッカーボール
マッコウクジラの腹の中
静かなゴール ゲーム・セット
雫
灰の顔が祈らずに見る
石たちの追われた限りない明日に
水飲み場は刺殺される
銀を患う日時計の財布から凝視する
ひとつの裸眼が摘み取った
カナリヤはプリズムをくぐり抜け
油紙に包まれた囁きの乾いた動き
汚れたノートから呼び起こされた恋人の
その松葉杖のない凍えは真水で耳を迷う
静かに偶然が結び解ける水槽で
錆びた革命の缶詰で舌を切った少女の
暗闇を行き来する 甘く大人びた寝息
冷たい薪を狂った髪で燃やすそれは
自己の債権者であり債務者でもある
ひとつの太陽の自主的瓦解
漂着した異国の無謬性から
白く萎えた無数の脚が伸び
透明な咽頭を探して捲る風に変わる
飛行機のように
真っすぐ時代から遠ざかる
濡れた密約を糧として
脳天に穿たれた真白さで
全ての裸婦像を侵食する
枝垂れるような獅子の空洞が
まどろむ煙を震撼させて
届かない背中から裂けて行く
ひとつの桃の落下速度
かぎりなく引き伸ばされて
一切の説明を拒む
暗黙の悲哀――誤謬のしたたり
比喩
鳥がさえずるように
海を見ていたい
雨が踊るように
時から失われて
《2021年4月18日》