ヨラさん(再録)
ひだかたけし

ヨラさんは小児麻痺だった
ヨラさんはよく笑った
ヨラさんはそのたび涎を机に垂らした
ヨラさんは頭が良くてクラスでいつも1番だった

僕はヨラさんを笑わせるのが好きだった
僕はヨラさんの涎をそのたびハンカチで拭いた
僕はヨラさんの手を引いてよく一緒に下校した
ヨラさんの手はいつも冷え切っていた

クラスメートの何人かは
「あいつらはできている、気持ち悪いな」と
あからさまに笑いながら言った
僕はある日、
そいつらを屋上に呼び出して殴り合った
ヨラさんは僕が教室に戻って来ると、
黙って鼻血を拭いて止血してくれた
「あいつらは宇宙人同士だから」
そう言う声が聞こえた
僕らは宇宙人なんだって!
僕はヨラさんに言った
ヨラさんは〈きっとその通りだよ〉と
ミミズがのたくったような字を
ノートに書いて見せ笑った

四年生のクラス替えを前に
ヨラさんは養護学校に転校していった
最後の日も僕はヨラさんの手を引いて二人で帰った

ヨラさんの手はそのとき温かく熱を持っていた
ヨラさんは帰宅途中ずっと泣いていた
ーいつものように片足をズルズル引きずりながら

僕はヨラさんが泣くのを初めて見た
僕はヨラさんの我慢強さと天真爛漫さが好きだった

僕はヨラさんが好きだったのだ











自由詩 ヨラさん(再録) Copyright ひだかたけし 2021-04-12 20:02:11
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