偶数のブレス
妻咲邦香

黙って走っていると
見えない痛みが込み上げる
この手の中にあるものを自由にしてあげられなくて
白熱するだけの空論
卵ひとつだって残せやしない

働いた分だけ汗で潤したなら
その先を憂うる一人になりなさい
貴方は容易く馴染まない
ならば最後の端数になりなさい
誰にも味方がいるもの
だがそれを知ったとて何の救いになるだろう?
私の点けた火で誰かが燃やされ
同じ火が誰かを暖める
呼び合うしかない貴方と私の間に
たった10個しか集められなかった数字のお陰で
偶然が多過ぎる

息を止めるだけでは苦しくなれない
探し始めなくては
あの日始まった侵食がもうすぐ肺に達する
助けて欲しくて手を差し出すけど
お願い、見つからないでと泣きながら
掻き分け進む堆積物の中
恵まれてる方が悲しみの種類は多いのだろうか?
「吸って」と「吐いて」は会えたのに
「ハロー」と「グッバイ」は生き別れ
いつか会える日を夢見ていた
底が見える程うんと息を吐いたのは
スタートラインに立てた気がしたから
やっと今


自由詩 偶数のブレス Copyright 妻咲邦香 2021-04-10 10:57:16
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