未詩集2
道草次郎

「水の気持ち」

とてもよわい
なんにもできない
雨にザーザーふられ
なんども
なんども
うなだれるしかない
雨があがったら
ころころと珠のような
らくるい
土は
ほほえみ
水の気持ちは
花となる


「あさはいずこ」

朝が
何処にあるのか
それが
いまだに分かりません
深夜
何かがうなっています
朝を
さがすわたくしは
丸まる雛鳥
無花果のような夜に
ぶるぶると
震えているばかりです


「味が」

書きたいことがあるのに
書くことが美味くない
書きたいことがないのに
書くことが美味い
書きたいのか書きたくないのか
よく分からない
ぼんやりと過ぎていく
何が
時が
時の味は不味い
いや
味がしない


「春のむずがゆさ」

とてもむずかしい
そもそも
むずかしい
それから
それはむずがゆい
それじたい
おおきなむずかしさの海の
なにか
手違いのような波

地球が
身をくねらせる
すると
オーストラリア大陸に塩水がかかり
コアラは
お尻をポリポリとかくだろう
春のヤナギが
そよかぜのムンクとなり
人間の条件が
タンクローリーに踏みつぶされる

むずかしい
とてもむずかしい
そして
おおいにむずがゆくもあるのだ
それは


「鉄道の絵本」

あたらしい
たくさんな星
まるで
気付かなかった
キラキラの星
本を閉じて
おおきく息を吸い込み
目をつむったら
そこは
誰もいない三等車だ


「ひばりはなく」

外を眺めている
なかなか
潮が満ちてくれない
いつからか
歳をとるのを待っている
きのう
寺山修司詩集を買った
兼ねてより
白亜紀末期が好きで
つまり
ぼくの必要は
ずっと発明とは異婚のままだ

山の稜線には
心を歩かせてやる
と、眼がビルに触れ
言葉の足踏みがきこえる
眼は
メタセコイアの梢に
腰を掛けたがる
こうして
春はくりかえされる
身代金の代わりに
ヒバリを欲しがるのは
それは
春の仕業だろう


「プチん」

張り詰めた糸が
プチんと切れるような音がした
どうやら落ちたらしい
一匹の野良犬がやって来て
口をはふはふさせて
それを食ってしまった
ぼんやりと世界を見渡す
なるほど
まだ誰も気付いていないようだ
どうしようか
このまま黙っていようか
黙ってたって
別に大して変わりはすまい


「ハナニラはうつくしい」

ハナニラはうつくしい
ハナニラはちっともそれを知らない
ハナニラは軽そうだ
ハナニラは軽そうに生きるひとのようだ
ハナニラは哀しい
ハナニラはちっともそれに気付かない
ハナニラは光っている
ハナニラは光をまとい生きるひとのようだ



自由詩 未詩集2 Copyright 道草次郎 2021-04-09 10:29:24
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