心電図
妻咲邦香

景色はそれを必要としてる人の前にだけ現れる
それはいつの日か声の上に、言葉の上に
紙の上に落ちてくる
誰も書かなくなった詩を、誰かがまた書き始める
知っていましたか?
世界はもうすぐ微笑む準備をしています

神様なんて裏切るためにあるんだと
そう信じてた少女が
少年の心臓に手を伸ばした
小さな町で、何処かの片隅で
待ってたんだよこうして
忘れ去られるのを

ずっと追いかけているものがあるだけで
余計な知恵を手に入れて、心電図を書き換えた
無垢の妖精に姿を変えて
花の蜜だけを探し飛び回る私は
自由だけど今にも破れそうな羽根を背負っている

洗濯機を回す
ニュースの声がかき消される
歯医者の予約を確かめる
奇跡は短ければ短いほどいい
そうして、誰も読まなくなった詩を
誰かがまた読み始める

それはもはや言葉じゃなくて、声
ずっと大事にして使わないでいたものだから
待ってるんだよこうして
閉めてしまった蓋の裏側で
忘れ去られるのを


自由詩 心電図 Copyright 妻咲邦香 2021-03-28 10:19:55
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