黙秘権
妻咲邦香

遠い日の転んだ時に見上げた空
また会えたね
昨日までの口紅が折れて
金床雲の灰色、少し分けて欲しいけど
ああ、元々はあなたの敗北感?
先割れスプーンの哀しさみたいに
何処まで行ってもスプーンはスプーン
パスタはすくえないんだね

いくらだんまりを決め込んでも
怖じ気づくようじゃ
今も吸って吐いてを繰り返す
私の歴史だけが負けていなくて
あくまで権利を主張する鈍く艶のない正当防衛
まだ光らないでいい
まだ焦らないでいい
それでも切り取り線を大きく外して
封筒からこぼれ出た文字の切れ端
私の声帯を目指して飛んで来る
飛び込んでくる
督促状の赤
小指の先で唇に引いて一文字に結ぶ
いつでもいいと思ってた気持ちが
いつの間にか
いつまでも、に変わってた

次はいつ?
またパスタでも食べに行こうよ
寝返っても、空
寝返り打っても、空
罪状認否をしない代わりに
私にはまだ黙秘権が残っている


自由詩 黙秘権 Copyright 妻咲邦香 2021-03-23 02:22:18
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