いつだってわずかなものを求めて街を彷徨っている
ホロウ・シカエルボク
どこか金属的なノイズ、揺れる路上のリズムと、スニーカーのゴム底のスクラッチ、腕時計の文字盤をスルーして時は過ぎていく、流れ去るもののすべてのことを俺は知っている―とどまるものに比べても、ずっと―狂った虫のように表情をなくして、くすんだ世界に身を投じる、錆びた鋏のような日々、一色だけの塗絵…飲みつくせない缶の飲料の底には悲鳴が隠れている、それを耳にしないように慌ててゴミ箱を探す、お終いの音は儚い、お終いだと気付くことすらない、だから流れ去っていくことが出来る、宿命とは捨て去った物事への未練を語ることか?いや違う、まだあまりある希望を歌うことか?それも違う、結局は現在を、直近の過去を事細かに解剖してばら撒いて見せるだけのことだろう、リアルって要するにそういうことだろう、ゴミ箱がいつだって汚れているのは中味をきちんと片付けないやつが多いからさ、そういうことが自由だって信じてる―そんな人間がこの街にはごまんと居るんだ、もしお前の家の近くに公園があるなら行ってみな、煙草の吸殻が落ちてない日なんてまずないだろう…彼らにとっちゃモラルって恥ずかしいことなのさ、そうすることが自由だってみんな信じてるんだ、どんなに歳を重ねても思春期を脱することが出来ない、ここはそんな奴らの為の街だ―控えめな文句と、目を合わすことのない挑発、そんな痴態を迷いすらなしに演じて見せる、それ以上がここには存在しない、見上げたもんだ、凄いよ―人生ってもっと建設的なものだと思っていたけれど、そんなことを考えているのはごく少数なんだって、俺、なかなか気付けなかったんだ、だって、誰もがそれに頭を悩ませていて当然だって思っていたからさ…まったく、愚かだったね、俺と彼らの間に共通言語なんてないんだ、つい最近になってようやくわかったんだよ、見解なんて感歎に持つもんじゃない、想像を絶するような安易な世界で生きているやつって、びっくりするぐらい、居るんだぜ―勘違いしないで欲しい、俺は自慢をしたいわけじゃない、ただただ、驚愕して、落胆しているんだよ、その数の違いにね…こんな言い方は語弊があるかもしれないが、まるで宗教の様さ、それもあまり、ちゃんとしていない宗教、たったひとつのキーワードによって、そこに集う全員が何の迷いもなく決められた動きだけを繰り返している、薄気味悪くないか?そう思うのがまともだよ、少なくとも俺は絶対にそうだと思うぜ、自意識を、魂を、命題を欲さず、まるで動力の一部であるがごとく動き続けているんだ、奇妙に思わない方が無理ってもんだろ…俺は距離を取りながらその中で暮らしている、そんな俺のスタンスに過剰にイラつくやつが居たりする、不思議なほど俺に絡んできたがるのさ―なにか馬鹿にされたような感じがしてイライラするんだろうね、そいつがもしもある程度知能というのを持っているのならね…それはそこに収まるしかない自分自身へのいらだちなのさ、本当はね…俺にしてみればそんなことは知ったことじゃない、そいつ自身がケリをつけなければいけないことだ、俺の人生にはそんな項目に関わっている暇なんかないのさ―自動販売機を離れる、街は蠢いている、あるのかないのかわからない流行病のせいで、顔を隠した連中ばっかりだ、死にたくないのかい、生きようとしても居ないのに?いつだってわずかなものを求めて街を彷徨っている、俺が欲しがっているほとんどのものは商店街じゃ手に入らない、それでも時々、びっくりするような質感に出会えることもある、それはほとんどの場合、トリガーの役割だけれどね―無意識的にきっと、なにかを感知しようとし続けているアンテナがあって、ほんのちょっとした出来事がそれに直結する瞬間がある、難しいものだな、と俺は思う、必要な物はそれらしく現れたりしない、久しく逢ってなかった友達に偶然出会うときみたいにそいつは現れるんだ…悟りに振り回されてはいけない、なにかを知った気になるのなんてほんの一瞬のことだぜ、重要なのはそのものじゃなくて、そいつから目を逸らさないようにすることさ、変化を目にすることが大事だ、変化についていくことが大事だ、それが出来れば真実はいつでも自分の側にある―側にあったからってどうなるっていうようなものでもないけどね…しいて言うならスローガンみたいなものだから…どんなものにも引き摺られるなよ、安易な謳い文句にのせられて、小さな舞台で踊るような真似だけはしちゃいけないよ、俺は口を拭った、腕時計の文字盤をスルーして時は流れていく、こちらの目が開いていようが、閉じていようがだ、煤けた世界の中で必要なものを見つめ続けるのさ、さあ、行くか―口先で遊んでる連中なんか相手にしたってしょうがないだろ。