文章の森での出来事
道草次郎
文章の森に
本の生る木があった
こっちの枝には推理もの
あっちの枝には時代もの
てっぺん辺りに専門書
棘の節には官能小説
若芽には児童書
ある日のことである
その木に甘い砂糖のような雷が落ちた
びっくりした本たちは
次々と木から落っこちてしまった
こんがり焼けたパイの匂いが漂い
おびき寄せられた森の動物たちによって
あっという間に
本のパイは平らげられてしまった
それからというもの
文章の森には本の実らない木が
ブスっと突っ立ているだけ
下草のような言葉が一面に蔓延り
森に迷い込んだ旅人を
いたく惑わしているそうだ