反省なんかしない
ただのみきや

焼香

つぐみを威嚇する
ひよどり
声は形より
広々とこまやかに
震えた
春の微粒子
住宅地の雪解け水を
長靴で測り
黒いコートに受ける
日差しをありがたがって
祈る鼻歌
蜜柑ひとつ分
透明になった
気まぐれを
気まぐれのまま
窪みから仰げば
歌のきざはし
高く崩れ
もう結べない
昨日のように
脱色されている






肉体

雨風に弄られて生きるものもあり
朽ちるにも様がある
春に迷い出た
枯葉ひとつ
風のリードにきりきり舞い
雪解けの暗い水に
冷やかな天の額
命ほどの重荷はない
あるいは 命の方か
こんな荷物を背負わされたのは






無限階段

なめらかな
拒絶の抱擁
ゆらぎの奏でる
上昇と下降
無垢の手管
崖の隔たりを
眼差しでたぶらかし
渡って行く
背中を追って
展開された
時の絵図面
記号の犯罪に
発情して






安易な抵抗

悲しみを屈服させれば
やがて復讐される
津波は今も暗渠を駆ける
轟々と前触れは
瞳の中でいっそう
暗く渦巻いている
時計の化け物






真っ赤

身は爆ぜ
魂ははみ出して
たった一つの石炭が
なにも燃やさずただ己だけ
苛むでもなく
黙々と昇華する
その在り様を
激しくても去って行く熱と
形も区別も失くした灰へ
ゆっくりと
迅速に
移行する
熱く明々と
孤独の思索は
言葉故の不完全さを
人に自覚させず
愛は回りくどく
損得を詰問し
目録の中でのみ微笑んで
エントロピーのうねり
神の無形の掌の
現象でしかないグラスの中
空箱の中身を競わせる
どんな理想が
どんな思想が
どんな未来予想が
一個の石炭に勝る
生を人に保障するのか
それに直接触れるには
脆弱すぎる手が
ペンを持ちキーを打つ時
言葉は灰ではないと
嘯くよりも
生の昇華のための
残り滓と認めていたい
なんて真っ赤な
嘘もまことしやかに






目交尾

わたしたちは見る
互いの中に
囚われた己の姿を
愛という
悪しき慣用句を用いる前
瞳を縫い付けた
見えるはずのない月
あるはずのない姿
向かい合うタツノオトシゴの
背中に生えた群青の翼
わたしたちは互いを身ごもった

完全は完成する
結婚もセックスも共同生活もなく
わたしたちは仔たちを放出した
夜は天と地をひと繋ぎにし
時の奥行は海
開いて 閉じて
どこまでも終わらない
紐付いた記憶が
抜け殻みたいに透けて
相殺する衝撃が体を
一面の月へ






たくらんけ

息子が急に太り出した
半年くらい前就活時には
ウエスト八〇だったのが
今は九〇でもきついと言う
疑うことなく育てて来たが
もしや知らぬ間に托卵されていて
お相撲さんの雛を育てていたのだろうか
考えると眠れなくなる
すると夜な夜な息子の部屋から
オンラインゲーム
盛り上がった会話が聞こえて来る
僅かな日数での見事な昼夜逆転
超のつく出不精
ゲームとアニメとネット小説以外興味なし
もしやわたしが育てて来たのは
オタクデブの雛だったのか
考えれば考えるほど悲しくなって
トイレへ行った隙に
息子の酒をこっそり盗み飲む



                《2021年3月14日》











自由詩 反省なんかしない Copyright ただのみきや 2021-03-14 17:05:08
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