ついーと小詩集3
道草次郎

「歳差運動」

鳩時計が深夜の零時を回る

蟋蟀が
地球の内耳で
求愛している

着実に
七百分の一歳年を取る

さて
もう一度約分のおさらいから

(ペンを執る)

天球のどこかで
星の
ズレる音



「高原レタス丸かじり」

全部
なくしてしまった
くやめるほど
それは
確かじゃなかったけど

代わりに
空っぽの青空が
一つ
贈られて来た

なんだか
可笑しくて
高原レタス丸かじり
しちゃった



「自己紹介」

ぼくは自動販売機
コインを入れても知らぬフリ

ぼくは神社の賽銭箱
小銭を集めて泥棒を待つ

ぼくは奈落の底
星を見上げて恋をする

ぼくは獣の牙
肉でも摩耗してしまう

ぼくはハナクソ
鼻腔に暮らして幾星霜



「太陽系家族」

水星にとっての太陽は頬を張る虐待者に違いなく
金星にとっての太陽は鬱屈とした暴君
地球にとっての太陽は知っての通り信仰の対象ですらあり
火星にとっての太陽は有難いけど物足りない友達で
木星にとっての太陽は故郷に居る頑固おやじみたいなもの
土星にとっての太陽は輪っかをくれたけれどもどこか遠い存在
天王星にとっての太陽は余りにか細いつながりのどこぞの親類ならば
海王星にとっての太陽はもはや永遠のネグレクター



「普遍さん」

肩を叩かれ振り向くと
普遍さんが立っていた
貫きたがりな奴だ
いつも顔を顰めてやがる



「終末期の地球」

燐寸を擦ると
燐光一つ分の銀河が
またひとつしぼむ

白んだ夜明けを
かいくぐる骸骨の群れは
どこまでも透明だ

地衣類と結託した
カラスノエンドウが
随時生成する語弊

疲れ切った猿たちは
ほら
オゾンのソファーに身を沈め
黄昏を待っている



「アフリカまで」

アフリカまで
走れ

雲をおいかける雲
とくべつえらくもない草原

そこにはある



自由詩 ついーと小詩集3 Copyright 道草次郎 2021-03-12 21:57:00
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