廂間の送り火
あらい

「少し、お時間をいただけませんか」
そう言って翁は腰を下ろしたまま、見上げている

なにもない時に滑り落りた砂を 固めただけのトンネルに、
置いていかれた心地で。
―― ぽたりと漏らした
寸とする精彩画 永遠に轟かす為に 小さき籠の中に眠れる
餓鬼(ジャリ)のように。
僅か膨れた胸にひたむきに悔いを射ち 私をすぼませた時、
ぐうと 帰趨(きすう)を惹き 縫い留めたものだ。

背の翼の汎きこと 透かすもの。
形にも満たくなし おもいごと
中ほどにピンを指す、これが点

たしかに 私共々焼いてしまえればよかったのに

枯葉や朽木は群がり暖を採るのが常、
ただ火花ばかりが散らかりみせる
ひとひと 従順に温もりに驕れる。
砂上の跡は風に弄ばれ 鈍ら香ばしい燻りが
ぱっと咲いて花をつける。
異様な心地でふんわりと綿菓子の雲に飛び乗る
延ばした蛇の殻を摘んでは はにかんで喰らう。
なにを?
満ち足りぬ干きのまま、
弛緩した格子に多織り込んだ、古舟を漕ぐ。
この腕が育んだ生命、
空に唄ったはずの親知らずの乳歯、
侘し錆びた空き感の∞《ハチ》に生けたものだ

何も見えず聞けず微動だにしない 一粒の真珠
これを二枚貝に横たえる。
絶えず。期待と不安を枷に 核と芯をを強要(しい)た、
私に?
呑み込まれた星々に滑らせる 銀の月 底を突く、
あふれぬめり要るだけの親身に由り到る
頑なだった胡桃の殻をなしくずしに弱らせ
忘れ得ぬことの無い 鮮血、潤わせ、欲の果てに誘われる

これは幻であれ現でもある。炎か
「はなしては くれないのか」
ぼそぼそとほつれた意図を結びつきたる、そして放熱

許したのか
繋いだのか
橋の袂にて。それとも 坂道の未知か
あゝ 進むべきか 戻るべきか
こたえをもとめても
こたえはおなじにはならない 見ず知らずの途だろう
わたしたちは対峙している
はじまりの道と最期まで往く
どのみち 暗夜の灯火を辿る。

ただ瞳を閉ざしたその先が、
とうとうあらわされただけだった

抜け未知であるか袋小路、
に詰まったままの竹筒を前に煩わせる
ただ、ただのきな臭いばかり 囚われの夜は更け征く、
いつかの淫雨のしらべを思い出したばかりに


自由詩 廂間の送り火 Copyright あらい 2021-03-10 23:30:49
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