アルファベット奇譚
道草次郎

台所で支度をしていたら
アルファベットたちが
まな板の端っこを
ふらふらと歩いてきた
みんな
疲れきっているように見える

誰かが落っこちた
また
落ちた


次から次へと落ちていく
最後に残ったのは
……
H

I
この2人だ
2人はまな板の真ん中にくると
肩を組んだ
(HI)
ぼくに手を降っているではないか
思わず
こちらも手を振り返してしまう
⦅やあ⦆
2人は慌てて
ちがうちがうという素振りをする
逆だ逆

(IH)

振り向くと
ガスコンロから火が上がっていた

FIREでいいのでは?
と思いつつも急いで消火活動
二人は
そんなぼくの慌てふためきを尻目に
楽しそうに
組み体操をはじめた
あんな形や
こんな形
どれどれこうしてみたらどうか
いやこの方がいいか
そんな2人の掛け合いが
今にも聴こえてきそうだった
最終的には
鳥居で落ち着いたらしい

うーむぼくは腕を組む
まな板のうえに⛩があっちゃ
どうにも
あまり縁起が良くない
そこで
ちと手をのばし
細工をしてやった

よおし
これでいいぞ
これでいくらか便利になる
わざわざ郵便を出しに行く
手間が省けるというものだ
2人は
動き疲れて寝てしまったようだ
さて
2人が起きるまでに
さっさと
この手紙を仕上げてしまわなきゃ
包丁にピーラーに泡立て器
ここにはなんでもある
さあ
あの子へのラブレター
うまいこと書けたら
すぐ目の前のポストへ投函してしまおう
I

H
の2人が目を覚ます前に


自由詩 アルファベット奇譚 Copyright 道草次郎 2021-03-09 09:43:30
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