2011年の詩から
ナンモナイデス




2011年の詩から





フェルメールの少女


振り向いた君は
何を見たの
輝く真珠
珍しい果物
かわいい子猫

振り向いた君は
何を聴いたの
彼の声
風の歌
妖精の囁き

振り向いた君は
何を感じたの
恋の予兆
いいことがある…
嵐の前


窓を開け
外を覗いた瞬間
少女は銃撃されたのです

   蒼いターバンが宙に舞っている

死んだ少女は
青い鳥になった

   身体の拘束から「私」は解放された

そうです
幸せを求めて彼女は
ふりむいたのです


宇宙はひとつであるとは限りません

数学者でさえすべての方程式を
解く事は出来ないのですから

幸せを求める方法も
無限にあるのかもしれません





かざぐるまが回っています


かざぐるまを吹いていました
家に帰ろうと思います

生まれた家に帰りたいと思っています
かざぐるまを吹いています

風が止んでしまいました

一人で帰ろうと思います

カラを抜け出せずに干乾びてしまったセミが一匹
家の前に転がっていました

生まれた家は取り壊されていました
また私の生霊が身体を離れてしまったようです

風が吹いてきました
かざぐるまが回っています





木陰語り


眺めているんだ

いつだったか 
定かではないのだが
ここに来ようと思っていた

  木陰は涼しい

誰に尋ねることもなく
あの日のように
たどり着くことができた

私の遺伝子が組み合される
ずっと以前から
この風景を眺めては

  思い出すのかもしれない

私が私でなかった日のことを
私の細胞だけが覚えている

安らぎについて

また語り始めた…





未来を殺せ ただ永遠を見よ


当たり前だった日常
平穏な生活を
送っていた日々

あの暗黒の昼下りさえ
起らなければ
我々の魂は安らいでいたのだろう

我々の魂は震撼した
忘却していたのだ
全てを無にしてしまう自然の本性を

我々に出来ることは
ひたすらに祈る事
全てを無化しようとしたものへ

そして死者を
静かに弔うのだ
なにの報いも求めずに

しかし今も我々は怯えている
だが慰めはいらない
涙はいらない


我々をこの暗黒から開放させる事ができるのか


*「哲学することは 死を学ぶことである」

未来を殺せ
神を殺した時のように

魂を無化するのだ
そして刹那の間に
永遠を見よ



 *モンテーニュ 『エセー』 1・20 





白い壺を眺めていると


白い壺を眺めていると
話し声が見えるのです

右側に君がいて
左側に僕がいる

白い壺を廻してみると
虹が聞こえるのです

左に瞳を近づけると青く鳴り
右に瞳を遠ざけると赤く鳴る

壺が黒くなりました

何か匂ってきました

誰かが壺に花をいっぱい活けたのです
壺は花の影にすっぽり隠れて終いました

でも花なんて数日も経てば
しおれてしまうものです

そうすれば壺は
また白さを取り戻すのです

そしてまた誰かが同じ様に
この白い壺を眺める事でしょう

私のように





オオゲツヒメを食った奴は誰だ


オオゲツヒメを食った奴は誰だ

オオゲツヒメの
乳首にしゃぶり付いている奴は誰だ
オオゲツヒメの
太ももを焼いて食っている奴は誰だ
オオゲツヒメの
おまんこを裂いて
卵巣をひきずりだして食っている奴は誰だ
オオゲツヒメの
膣をえぐり取り出して
自慰に耽っている奴は誰だ

オオゲツヒメを食った奴は誰なんだ

オオゲツヒメの
大きなケツの穴に
スサノオは腕を突っ込んだ
そうしたら可愛い
栗が一個ポッコリ取れた
スサノオは喜んで
それを頬ばった





私が死んだら


私が死んだら粒子になる
有名な科学者は
そう言っていたらしい

私が死んだら私の考えたモノになればいい
高名な哲学者は
そう言っていたらしい

神は試された
無から有がつくられるのかどうか
ヒトという生物を創造して
それを試された

ヒトは神の期待通り
思考に試行を重ねて
膨大な人工物を造った

しかし神については
今でもヒトはなに一つ
語ることが出来ない

私が死んだら
神になってやる
そうして
有から無を創ってやる!





永遠という監獄から現代を見つめている者たちへ


一位や二位が問題ではないのです
役にたつとか立たないとかが問題ではないのです
我々が求め続けなければ
ならない価値とは
常に最高を維持するという事なのです
絶対知を知る事ができない
我々にできる
これがささやかな抵抗なのです
人類は自由を理想とする神を
降臨させ続けなければならないのです
そしてその神をひたすらに
疑い続けもしなければならないのです

得体の知れない闇の世界
物自体とはなにであるのかへの
歯止め無き挑戦

これが知の完成を希求してやまない者たちの
いい訳であり本心でもあるのです





あの水の匂いが忘れられないのです


水のにおいが好きなんです。
おさないころ蛇口を上に回して飲んでいた
あの水の匂いが忘れられないのです。

水のにおいが好きなんです。
古池で魚を釣って遊んでいました。そう、あの時・・・
あの水の匂いが忘れられないのです。

水のにおいが好きなんです。
虹が見える、梅雨の晴れ間のあの霧の
あの水の匂いが忘れられないのです。

水のにおいが好きなんです。
あなたに逢えたあの日の涙で見えなくなった風景の
あの水の匂いが忘れられないのです。





≪被災地の浜辺には海風が騒いでいる≫
≪亡くなった人々の呻き声の様に≫






遺服


遺体が着ていた
衣服や下着を洗うと

たらいの底には
砂がたまる

洗っても
洗っても

黒い砂が


洗っていると
初老の婦人は

つぶやくように
嘆いていた

けれど
今日も

少しでも
身元がわかる

手がかりに
なればと

祈りながら
泣きながら

衣服や下着を洗っている


たらいの底には
砂がたまる

洗っても
洗っても

黒い砂が





2011年の孤独


遠ざかる
あの日に呼びかける
もう消えてしまった
あの日に
いつものように
詩を書いている
自分には
いつか訪れる
自分の時間の消失について
深く思索する
ほどの
危機が無い
ハイデガーのように
ナチの御用学者でも
後の世に存在する者達が
その学説を優先し
評価するならば
ごらんの如く
学説は生き延びている
世の常だといってしまえば
反忠臣蔵だ
と討ち入ってやりたい
気もするが
危機感も何も無い
紅白でも見ながら
年越しソバを
啜れる喜びを
鼻水と共に
分ち合おうと
思う







自由詩 2011年の詩から Copyright ナンモナイデス 2021-03-08 20:57:48
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