黒豹
朧月夜
暗闇のなかにて、
わたしは黒豹だ。
黒豹でなくっても、
黒猫でも良かった。
それでも、わたしは黒豹で、
黒猫よりも㸃いと思っている。
大烏でも良い。
それでも、エドガー・アラン・ポーの、
大烏を一度も読み通したことがない。
黒豹は、黒猫よりも黒い。
なぜかそのように思っている。
黒豹は、恐ろしくも美しいから。
暗闇のなかでは、より黒く重々しく、
悲劇と悲哀をまとっている。
わたしは黒豹だ。
深い穴倉の底に落ちて、
そこで悲劇を夢見ている。
悲劇? それは不幸だったろうか。
わたしはその不幸の意味を知らない。
いままでが幸福だったのかも、わたしは知らない。
ただ貴方だけが、わたしの拠り所だった。
あなたはわたしを愛してくれた。
わたしはあなたの愛に応えられなかった。
今でも、そのことを悔やんでいる。
発されなかった言葉、
顔を見ることができなかった後悔。
わたしは黒豹だ。
人を見ることがない。
捕まえるものは、いつも獲物になるもので、
わたしはそれを喰している。
生きる意味すら分からずにいたはずなのに。
どうして生きるのか、その答えを、
わたしは知っていたろうか。
あなたは知っていたろうか。
問いに対する答えもなく、
わたしは暗闇のうちに生きている。
いつかこの空が晴れたなら、
わたしは希望を胸に抱くのだろうか。
それとも空は黒いままで、
わたしは暗黒の台座に座っているのだろうか。
わたしは、黒豹。
明るい物を見ない、
わたしは愚かだ。
わたしは愚かだ。
暗黒の世界のなかで、
何物かを探している。
それは決して見つからないだろう。
それは決して見つからないだろう。
わたしはわたしが誰かも分からず、
狂いながら咆哮し、彷徨う。
いつか決して知り得なかったことを、
わたしは知りたいと願い、
わたしは手にしたいと願う。
それでも、あなたはわたしから去って、
わたしはあなたから去って、
過去の記憶だけを反芻している。
思い出は無意味だ、
それはわたしの現在に何の意味ももたらさない。
わたしは忘却だけを求めているのか、
忘却の果てになにがあるのか、
わたしは迷いながら見据えている、
見据えている、未来を。
どうか未来が幸福でありますように、
過去よりも未来が幸福でありますように。
それだけ……
わたしは黒豹。
暗黒だけを見つめている。
暗黒の日々が、新しい明るい日々をもたらすことを欲している。
そして絶望が、はるか彼方へ去るということを。
わたしはあなたを思い出している。
わたしはあなたを思い出している。
いつか聞いていた曲を、今も、思い出している。