春日線香

おとこが夜中にやってくる
そのおとこは生まれたことがないのである
いっしょにゆこう
どこへ
とおくへ
くちびるでかすかに笑っている
いそいそと身を起こして
服を着て出ていこうとすると
なまぐさい と言われる
くさいとはなんだ と怒りたくなるが
やっぱりそうなのかとわかっている
じわじわと水位が下がっていく
おとこは岸に舟を着けて
わたしを突き飛ばしざまに
ぐいっとやわらかいものをもぎとる
よくわかっている
舟はおとこひとりを乗せて
とおいとおい穴へと流れていく
そこでは無数のかにが
ひそやかに触れ合う音をたてて
この世をやわらかく憎んでいる
わたしは置いていかれて
薬缶のふたみたいにころがっている
ふなむしがいっせいに目覚めて
体を食い荒らそうとも
目をあけてころがっている




自由詩Copyright 春日線香 2021-03-04 23:12:46縦
notebook Home