2Χ0
末下りょう
花びらと油虫-
さらさらと指のすき間からなにも零れない
さらさらと指のすき間からなにもかもを零す美少女は
なにかを留める気などさらさらなく
校舎のような屋上から
花びらへと還り
穢れのない花粉を煌めく花園へと撒き散らし
だからこそ
深々と
このうえなく優雅に
そこより底ということのないほどの奥底へと散り果てる種族として
美少女は美少女の摂理を全うし
さらさらと指のすき間から儚きものたちを滞りなく零すことができるのでしょう
ざらざらと指のすき間から 油虫が這いあがってくる
食べられる言の葉などなにもないというのに
うれしいこと
このままゆっくりと
大小さまざまな無数の穴を穿たれ 淫靡にひろがる穴と穴とがつながり
やがて一つの空虚がぱっかりと残されるように 跡形もなくぼくを食い尽くしたあとは
ぞろぞろ糞を垂らしながら闇に消えてくれるのなら
ぼくは美しくうまれなかったことを あざやかに散る種族ではなかったことを
はらの底から味わい尽くせるのだろう
ああ
けだし美少女の命はひとひらでは重すぎる
初恋-
(いじめいじめいじめ いいイメージいいイメージいいイメージ にじめにじめにじめ)
ぜんぜんみじめじゃないいじめ虹ににじめ!
放課後の屋上で溢したジュースにぐるっと
アイラインみたいに群がった蟻の行列が
黒い涙みたいに変わるころ
だいだい色の中心で会いたい気持ちに酔ったままだいたいの恋の呪文を唱えた
下駄箱から消えたローファー
上履きのままスカート翻してつむじヶ丘公園の急カーブでスピードに乗ってからくり商店街のコロッケ屋さんで一旦ホクホクして
アーケード内の小さな神社でジンジャーエール飲んで
親戚の純喫茶で爆睡
帰りにおじさんがくれた真っ青な飴玉舐めて
口から喉に喉から食道に食道から胃に胃から蝶に蝶から夜に夜から夢に夢からきみにきみから
きみの あの あんな 眼差し ジリジリジリジリ アラームを消して朝から鏡に鏡から顔に顔から瞳に瞳から涙に涙から手のひらに手のひらから蝶に蝶から空に
きれいな朝ならなに味でもかまわない
歯みがき粉もシリアルも男の子も女の子もきみも蝶も
わたしいじめられて恋におちた
初恋
朝のおおいなるくしゃみ おおいなる微熱 おおいなるいじめとおおいなるいいイメージとおおいなるきみが好きを繰り返して青空に放たれた青い蝶をもっとちゃんとつかまえたくて
なにかの出口のようなあまくてにがい入り口につっ立って
きみが隠したローファーの足音を遠くに聞いて