あとは 念力で
ただのみきや

破産

意識の定点とその円周上を
時の天幕が覆っている
誕生のS極から
来るべき死のN極へ
時間の一方通行は意識の一方通行だ
後悔のE
憧れのW
キョロキョロくるくる回転し
ぶれながら ゆれながら
意識の定点は
本当はどこにも進んでいない
所在不明 仮のX
時の天幕と意識の円周は同じ一枚の布
天幕の外は永遠
だが永遠を意識が捉えることはい
天幕が取り去られる時
意識も流れ去る

言葉に現わせないものが真実だ
言葉が真実を名乗る時
筆者が嘘をついたのか
言葉が筆者を誑かしたのか

あらゆる虚言を用いて心象に呼び起こす
真実の匂いらしきもの
真実の影らしきもの
真実の遠い背中らしきもの
すでに死んだ真実の一部を移植した
目も覆いたくなる奇形のサーカスだ
この天幕は  良い具合に破れ
薄闇がこちらを覗いている






強襲

0.5グラムの睡眠と落伍した記号
薄目の中の溺れる唖者として光は景色を指し示す
時の轍 光の仔犬
テーブルの上の冷たい太陽
山の稜線を見つめている
前頭葉に熱い靄を抱えたまま
鳥やラジオの声を吸音した
展開される十徳ナイフ 
蝙蝠のめくるめく軌道
歯磨き粉を扱き出す不器用な手つきに欲情する
ような朝を夢想しながら 
足の小指をぶつけて泣いた
象牙の女よ 何故そこに






呼応

音楽は美しく白目をむいた
南の古い裸の歌声が
吹雪の中でからだを得る

ペン先のインクの滴り
黙した夢の入り口

降り積む雪は時そのもの
隠蔽し 忘却を誘い
刷新を嘯くが
無念の凍死体は白紙の底に沈められたまま

雀みたいにふくらんで
寄り添う二羽の鴉
夜の落とし子 双子の黒子
雪に埋もれた何かを探るように

巫女の舞踏が静かに漲る頃
夜は血のように滴った
汚すのだ 美しく
白紙に埋もれた凍死体は
新たな七つの姿態を演じる

わたしの夜よ
いつまでも他人の如く侵食しろ
せめぎ合う悲劇と喜劇の渦中へ
潜水艦よ浮上せよ






付き合いの悪い月

月は爛々として
わたしの瞳の鏡を覗いている
ゆっくりと暗転する一日が
グラスの琥珀に溶けてゆく
溶けないものが残る頃
瞳は爛々 もう とっくに
月は窓から逃げ出している


        
                 《2021年2月28日》









自由詩 あとは 念力で Copyright ただのみきや 2021-02-28 15:42:09
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