ダールベルグ
妻咲邦香

ふたつの静寂を飲み込んで
プロペラ機のエンジンが止まる
見てきた景色、幾らでも話して聞かせられるよ
触って確かめられるものなら
膨らんだり縮んだり
自由自在は健気だけれど
いつか歩幅を揃えて一緒に歩いて行けたらと
考えてるんだ、そんなこと

まだ誰も知らないうちに
夜の暖かさを見つけた
映写機のコンセント外して、言い換えれば
怖いんだ
みんなみたいに歩けなくて
君みたいに
夢を夢のように描けなくて
僕は弱虫だ
弱虫で高慢ちきだ
だから今夜も耳をすまして
絵描き歌に夢中な君のダールベルグ
黄色い花弁が飛んでいきそうなのに
いつだってこの世界は周回遅れのランナー
酷い音痴に慣れてしまいそうさ

眠れない港がまだ残る航路を数えて
出て行くならこっそり
僕は膝を抱えて足音を拾うから
Fly Me to the Moon
愛する人が死んだような目をしている
まるで

またプロペラが回り始めて
今「ごちそうさま」って聞こえた
消えそうな声で


自由詩 ダールベルグ Copyright 妻咲邦香 2021-02-25 23:22:08
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