二枚貝
妻咲邦香
少し雲を横にずらしたところ
まだ日に焼けてない空が現れた
日傘の出番を待っていた
帰ろうとしている場所が家ではない気がして
私は駅を探す
私を乗せてくれるホームは何番線だろう?
海面が上昇すると、この町は海の底
何もかもが青くなり
私は二枚貝
日傘をもう一本探して泥に潜る
まだ手を離さないよ
あなたは私を守ってくれたから
あなたを自由にさせてしまったら
裸の私はウミウシ
鮮やかなドレスをひらひらさせながら
誰かを誘うしかないじゃない?
昔見た夢がまた語りかけてくる
私のした約束は言葉にしなかったので
日付もないしサインもない
言葉なんてどうせ隙間だらけで
線の間から下地が日に焼けして
だからもうそのまま動かさない
砂埃が目に入る
ずらした雲は走って逃げた
泥の底、眠る日傘の下
汽笛が耳に届く