二枚貝
妻咲邦香

少し雲を横にずらしたところ
まだ日に焼けてない空が現れた

日傘の出番を待っていた
帰ろうとしている場所が家ではない気がして
私は駅を探す
私を乗せてくれるホームは何番線だろう?
海面が上昇すると、この町は海の底
何もかもが青くなり
私は二枚貝
日傘をもう一本探して泥に潜る

まだ手を離さないよ
あなたは私を守ってくれたから
あなたを自由にさせてしまったら
裸の私はウミウシ
鮮やかなドレスをひらひらさせながら
誰かを誘うしかないじゃない?

昔見た夢がまた語りかけてくる
私のした約束は言葉にしなかったので
日付もないしサインもない
言葉なんてどうせ隙間だらけで
線の間から下地が日に焼けして
だからもうそのまま動かさない

砂埃が目に入る
ずらした雲は走って逃げた
泥の底、眠る日傘の下
汽笛が耳に届く


自由詩 二枚貝 Copyright 妻咲邦香 2021-02-23 23:20:19
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