No Code
ホロウ・シカエルボク


首筋を流れた汗は冷たかった、ラジオはゴスペルばかりで、俺は祝福など欲しいとは思わなかった、衝動は体内でハリケーンのような渦を巻いていたが、噴出する先を見つけられず色味の悪いものに変わりつつあった、今すぐ脳天をブチ抜きたい、ネガティブな意味じゃなくてさ、欲望とはタイムラグを持たないのが本当だろ、身体の中を強い風が吹き抜ける音を聞きたい、なにも釈然としないままベッドに横たわったままで居るなんて眠る前から悪夢しか見ないことは分かってる、友達に電話してもいいけど、こんな時間につかまえられるのはバカ騒ぎが好きな連中ばかりさ、応急処置じゃもう間に合わない、もう誤魔化しなんかきかないんだ、神経の中をなにかが駆けずり回ってる、俺の身体のバランスを崩している、叫んでもどうにもならない、イラついても、なにかを破壊しても、そんなことじゃもう鎮めることは出来ないんだ、もっと絶対的ななにか、決定的な一発みたいなもの、気分を変える、流れを変える、景色を変えるような決定的な一発さ、それが欲しいのは確かだ、でもそのためにはどうすればいいのかが分からない、シーツはいくら陽に当ててもじめついている感じがする、何度も寝返りを打つ、スマートホンの小さな画面を見つめる、それが俺の世界だなんてなんてみみっちい話だろう、アクセスしなけりゃつかめない快楽ばかりが世界中に溢れている、マクドナルドのセットメニューみたいな夢しか見られない、もうそんなもの食べても仕方がないんだ、夜は着々と更けていく、今日を記憶した細胞がひとつずつ死んでいく音が聞こえる、泡が弾けるような音だ、目玉は天井を見つめている、あれが落ちてくるような気がする、釣り天井みたいに、俺をぺしゃんこにしようと目論んでるんだ、俺にはそのことが分かっている、たぶんハナタラシのガキの頃からさ、夜になると俺はそんな夢ばかり見てきたんだ、そんな夢を見過ぎて見過ごした夜が数えきれないほどあったんだ、いつか見たある夜の陰鬱な気分が、真昼の中に居てもずっと続いているような気がする、頑丈な幽霊のように俺に付きまとってくる、実体のないものは殴れない、人生ってほんとはいつだってそんなものだったじゃないか?銃が欲しいと思った頃もあった、だけど持たなくて良かったさ、理由なんて言うまでもないよな?本当はあんなもの流通するべきじゃないんだ、表でも裏でもさ、簡単に殺せるものは、その理由すら簡単にしてしまうんだ、そのうちに死ぬことは怖いことじゃなくなるさ、どこかの誰かがその気になれば世界は滅びる、どんなに俺たちがこうしてもがいていてもさ、でも仕方がない、それは役割というものなんだ、誰だって好きで生きているわけじゃない、それが焦燥のゴールなら俺はどんな文句も言うべきではないかもしれない、悲劇も喜劇もきっと自分で招くものだ、そしてみんなそのことを完全に理解しているのに、上手い方へと歩くことは出来ないで居る、それを愚かだと笑えるものなど本当はひとりとして存在していないはずさ、そうじゃない人間なんてひとりとしていない、そうじゃないみたいに芝居を打つことはできるけれどね、ああ、まるで縛り首のようだな、真夜中の時間というものは、じわじわと、ものすごくゆっくりと時間をかけて首を絞めにかかるんだ、いまではないこと、昔のことや、明日のことを山ほど並べて暗黒に落とそうと嫌な笑いを浮かべている、裁判官はこの俺の中に居る、死刑囚も、執行者も確実に俺の中に居る、みんながみんな役割を実行しようとしたら、どうする?それは一種の殺し合いだ、俺は胸壁の内側で飛び散る血飛沫の音を聞く、そいつにメロディをつけて歌うことが出来ればいいのにな、目玉は天井を見つめている、それはいつか確実に落ちてくる、時々息を止めて、どれだけの間死んだふりが出来るのか考えてみる、それは死ぬよりもしんどいことのように思える、わざわざ死んだみたいにするなんて!俺はイライラしている、今すぐ脳天をブチ抜きたい、スプリンクラーみたいに自分が飛び散るのを観たい、それは幸せかもしれない、とんでもない痛みかもしれない、あるいはもっと激しい怒りを呼び起こすかもしれない、夜は着々と更けていく、ある種の夜は歳を取らない、そう、あの頃のあの夜みたいな夜さ、それが俺をいつだって寝床でがんじがらめにする、見えない有刺鉄線のようなものが肉体に食い込んでくる、痛み、両手を投げ出して大の字になる、いつか現れる太陽だって、焼き尽くしてくれるほどに燃え上がったりすることはない。



自由詩 No Code Copyright ホロウ・シカエルボク 2021-02-22 21:38:01
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