ペンギンの赤ちゃんのふわふわなお尻
道草次郎
体をつくる一個一個の原子はつねに入れ替わっているらしい。
一ヶ月経つと人間はまったく別の原子からできた別の人間になるんだというから驚きだ。
だから、「お変わりないですか?ええ。あなたもお変わりないようで何より」というよくある挨拶、これはまったく可笑しな話らしい。お変わり大ありなんだそうだ。
昨日はたまたまWOWOWの無料放送の日だったので、自然のドキュメンタリー番組を観た。ペンギンの赤ちゃんの巣立ちのシーンだった。お尻についた細かい藁みたいな草が今にも触れそうなくらいリアルだった。よく知らないけど4Kか8K撮影ってやつなのかな。じつにふわふわ感のあるお尻だった。
材料が変わらなくてもそれを使った機能は取り替える必要がある、らしい。でも、なんで?なんでペンギンの赤ちゃんはよちよち歩きをしなきゃならないんだろう。そして、なんで巣立ちを迎えなければならないんだろう。
たくさんの研究成果はその問いに答えを与えるだろうけど、どの答えもきっとペンギンの赤ちゃんの心を描くことはできない。
そう言えば生き物の体にとって不可欠な重い元素、これは圧壊した恒星の内部でしか作られないものらしい。太陽系が誕生するずっと前の話だ。
全く、宇宙ってやつは一体何をしたいのか皆目見当がつかない。
ペンギンの赤ちゃんはお母さんペンギンに促され、やっとのことで岩場へと転がり落ちる。ムクリと身を起こしたその先には荒ぶる大西洋だ。風は強い。でも、一生懸命に立っている。
頑張れ。
そうおもった瞬間いきなり画面にモザイク。ああ、なんてこった。このタイミングで無料放送終了らしい。
ぐにゃぐにゃした塊が動くのを見ながらもう一度心の中でつぶやく。
(うまくやれよ、兄弟。)
散文(批評随筆小説等)
ペンギンの赤ちゃんのふわふわなお尻
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道草次郎
2021-02-20 17:52:29
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