霧の自我
道草次郎
今日もう一人の自分を見た
時速60キロで走行中の車からほんの数秒間だけ
国道19号線沿いの何処かに
「新天地」という名の
廃墟と化したパチンコ屋がある
枯れ草が看板を覆い尽くし
建物はことごとく朽ち果てていた
ガラスは全て取り外され
あらわになった内部構造の中心に
もう一人の自分が立っていたのだ
その自分は
破壊されたパチンコ台の残骸や
逆さまの回転椅子
プラスチックの破片などを
ただじっと見つめている様だった
おかしいな
自分という人間はあんな所に立つような人間じゃ無いのにと思ったが
立っているのだからしょうがなかった
国道19号線は何十回と通って来たが
もう一人の自分を見たのは初めてだった
ダム湖の水はくすんだ色をしていた
点在するカモの番が
霧をうつくしく割っていたのを覚えている