大根狩り
末下りょう


赤ちゃんを引っ張りだすように大根を抜いていくかあちゃん
タオルを風に飛ばされても大根の泥をはらいしなやかに太陽にかざすかあちゃん

袋売りの切り干し大根にしか興味のないあたしは中立を気取る麦わら帽子と濃いサングラスをして

高さと拡がりが恐ろしく揃った大根の葉に触れながら
うねまを歩き
身籠る九ヶ月目の空虚に腹の内側を蹴飛ばされて丸まる

見知らぬ女性が笑みを残して通り過ぎる

うねまに土まみれの鉈が落ちている


赤ちゃんを引っ張りだすように大根を抜いていくかあちゃん
タオルを風に飛ばされても大根の泥をはらいしなやかに太陽にかざすかあちゃん

日差しを白く言いくるめる黒さにかあちゃんの半身が透き通っていく

中立を気取る麦わら帽子と濃いサングラスをなくしたあたしは鉈の土をはらい
かたい日差しを刈るように夜に咲く大根の白花を夢見る

明るいうねまに大根ほどの背丈の空虚が立っていて
じっとこっちを見ている

ツアーバスはあたしを忘れて出発した



自由詩 大根狩り Copyright 末下りょう 2021-02-12 13:06:56
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