ティースプーン
妻咲邦香

聞いていいんだよ
私は寂しかったよ
先の平たいアイス用のスプーン
最後まで綺麗に掬えるからって
あの頃のあなたって
そんなだったね
そんなだったよ

懐かしい路地裏のカフェ
ティースプーンくるくるかき回しながら
私がなりたかったもの
どっちなのかな?
どっちにしても、他は選べなかった
あなた以外はどうしても

「これひとつあれば十分」
そう自慢気に呟くのを呆れて見てた
あの時の私って
そんなだったね
そんなだったよ

前髪を下ろしたのは
変わってないって思われたくなくて
いつでも戻れた道の上
今欲しいもの以外何も欲しくないと
平気で言えた
同じ空の眩しさに消えそうでも
馬鹿みたいに笑って
ふたり揃って

今日はありがとう
あなたも居たら良かったね
振り返るのは得意じゃないけど
お喋りの後の最後の一口
何だか味気無くていつも
いつもいつも、私たち
そんなだったね
そんなだったよ


自由詩 ティースプーン Copyright 妻咲邦香 2021-02-12 00:20:50
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