見えないところで見えない形で
こたきひろし

お晦日の夜から元旦の朝までラブホテルで過ごした
事がある
事前にその事を彼女の家に電話したら
母親が出て
 お嬢さんを今夜こっちに泊まらせて明日そちらに送ります
と伝えたら 電話口で母親がこたえた
 いいですよ 結婚して頂けるんでしょう 嫁に貰ってくれるんですから
 どうぞどうぞ
と言われた
怖いくらいものわかりのいい母親をよそおいながら しっかりと引き換えの条件を口に出された
俺はいきなり刃物を喉元に突きつけられたような気分だった

成人してから五年が立っている娘だったから 母親はそろそろ相手を見つけて貰わないと困ると言う魂胆が見え見えの様子だったが そこまで考えが至ってはいなかった俺はかなりの部分気持ちが引いてしまった
しかし今更後には引けなかった 男の性欲に火がついて後先の身境を失っていたのである
優先順位のいちばんがそこにあったから、後はどうにでもなれと言う無責任な感情に支配されてしまったのだ
母親に釘を刺された形になったが、俺は返答を曖昧にして切り抜けた

結局俺は 人さまの娘の体とこころを都合よく利用して飽きたら捨てられる男にはなれなかった
だからといって結婚への前向きな勇気も決断力も持てないままに 成り行きに流され逆らう間もなく結婚し


式と披露宴を上げ ハネムーンはハワイへ飛行機で飛んでいった
そして帰って来てから入籍した

そこまではフアフアとした雲の上の絨毯を歩いているようで 現実感がまるでなかった
と記憶している

最初 結婚生活はおままごとのようだった
夜はお互いの体をむさぼり食いあさった
その結果 一人目ができた
三年後には二人目が生まれた
その頃にはおままごとしてられる状況ではなくなっていた

人生は新幹線並み それ以上のはやさで過ぎてしまった

過ぎてしまえば 
あっというはやさだった

あっという間のはやさだった



自由詩 見えないところで見えない形で Copyright こたきひろし 2021-02-08 23:53:20
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