あの子は……
ゼロスケ
団地の窓から出てったのは
あれは天使じゃなかったろうか
プリントの解答欄へ答えの代わりに書き置きを残して
翼なんかなかったけれど
あの子は天使じゃなかったろうか
“環境性調整障害”なんて自分で考えた病名が
己だけで酔いやすいあの子をよく表してるじゃないか
前髪で隠して熱でうるんだような瞳は何を見つめていたんだろう?
繊細なくせに大胆不敵な気持ちを持ち運び
天の一番高いところへ至ったとき花びらや
砲弾のように撒くんだろう
あれは本当に天使じゃなかったろうか
しかし僕は知っている
この夢を見ているのは僕だから
“そっちへ行くんじゃない”
像を結ぶ前に消える言葉
腐り落ちた舌が目の前で
冷や汗をかいた体を指弾する
窓で四角く切り取られた空に答えなんかあるはずないじゃないか
翼なんかないあの子が天使のはずないじゃないか
レースのカーテンが揺れる
まだ少し冷たい風が吹き込む
感覚だけが同じだ
あの子が天使のはずがないじゃないか
人間だってこと
僕は知っていてよかった