あの子は……
ゼロスケ

団地の窓から出てったのは
あれは天使じゃなかったろうか
プリントの解答欄へ答えの代わりに書き置きを残して
翼なんかなかったけれど
あの子は天使じゃなかったろうか
“環境性調整障害”なんて自分で考えた病名が
己だけで酔いやすいあの子をよく表してるじゃないか
前髪で隠して熱でうるんだような瞳は何を見つめていたんだろう?
繊細なくせに大胆不敵な気持ちを持ち運び
天の一番高いところへ至ったとき花びらや
砲弾のように撒くんだろう
あれは本当に天使じゃなかったろうか

しかし僕は知っている
この夢を見ているのは僕だから
“そっちへ行くんじゃない”
像を結ぶ前に消える言葉
腐り落ちた舌が目の前で
冷や汗をかいた体を指弾する

窓で四角く切り取られた空に答えなんかあるはずないじゃないか
翼なんかないあの子が天使のはずないじゃないか
レースのカーテンが揺れる
まだ少し冷たい風が吹き込む
感覚だけが同じだ
あの子が天使のはずがないじゃないか
人間だってこと
僕は知っていてよかった


自由詩 あの子は…… Copyright ゼロスケ 2021-02-07 12:12:26
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