カーネーション
妻咲邦香
剥いた蜜柑の爪跡が地球の裏側に勃っている
朝と見間違うかのような崩落
焔は零れる砂となり
紐を抱くとも数式の最後尾に綴じられる
消えそうな会釈で靴を脱ぐ
前室は輪郭に満たず、水没した鏡に肉の花弁
散る間際の叫び声のような、色
乾いて割れた蹄の音がこぞって迎えに来たようだ
旅の者にかけた情けが今また背後に忍び寄る
同じ道に見えたのだ
残した背骨が定理の鞍を替え
無事に星間物質になれますようにと、空の解剖図を開く
月の黙って帰る理由がわかった
艶を嫌って、さらに上にはもっと綺麗な装飾
勝手口を開け放つ
痩けた逆光に幼き老婆が蜜柑を頬張る
その頬の膨らみが押し曲げる軌道
今宵行きずりの流れ星
この部屋の梁を支える地軸へと招き入れるために
上空に踏切の音が鳴り響く
まだ薄化粧の雪原、白粉の煙は直下勃つも
無邪気さは何処までも透明なまま
古い裁縫箱がその韻を飲み込む
口の悪い幌馬車
叫び声とさらに、その色
素粒子は残らず肖像画に集まった
秒針に口紅を塗る
遮断機がゆっくりと降りる