馬齢店長
道草次郎

昔馴染みの店長がいる
地元の古書店へ行った
店長とはたぶん15年以上の付き合い
ひさしぶりにみた店長の声は
若い頃のままだったが
見事な白髪へと変貌していた
梯子を昇り
15年前と配置の変わらない
70年代のSFマガジンを漁る
落穂拾いだ
二、三冊をレジに
店長開口一番
「いやあ、お世話様です。お元気そうで」
なんと言えばいいか分からず
「ば、ばれい」
店長キョトンである
「え?バレー?」
いや、この状況でいきなり排球はないよ、店長
「ば、馬齢を重ねてしまいまして、このとおりです」
そう言って腹回りを強調した
店長わらって
「お互い様です」
220円を払い店を出る
近所のマクドナルドから
ポテトらしき匂いが漂ってくる
我慢だ
ぼくはあの店長に15年前に
『不思議の海のナディア』のサウンドトラックを売った
あの時店長はまだ若くて
(これ、これ、私欲しかったんだけど親に買ってもらえなくってね。有難い、自分で買います。)
と、言ったっけ
二人とも、たぶん歳をとったのだ
ふたりして
そんな雰囲気を自然と醸し合っていたし
それにしても参った
ここぞと言う時にぼくなんて
未だに 馬齢 一つマトモに言えないんだからな
まったく



自由詩 馬齢店長 Copyright 道草次郎 2021-02-06 17:06:56
notebook Home