黒田康之

冬の道に蛾が落ちてきた
大きな桑子だ
冬をやり過ごし
羽を朽ちさせた太い蛾は
冷たいアスファルトに震えていた
二月
妙に暖かい日に
それでも凍てた道路に腹と羽を震わせた蛾の
末路は知らない
あと少しで春になる
春になれば
朽ちた羽は戻るのか
細い足で
身を震わせながら道を渡る
お前の命の先には数台の車がある
おそらく死ぬのだとして
この厳冬の長い日々をお前が生きた証は何だ
車輪に轢き潰された後では聞けはすまい
今答えろ
お前の生きた証は何だ

かくて命の瞬間は長い


自由詩Copyright 黒田康之 2021-02-05 20:57:06
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