土竜
妻咲邦香

土を飼っている
従順で賢く我が強い
麦を好みパンも嗜む
時節をよく見極め常に冷静
時に激しく自己否定する場面も見受けられる
芸術に造詣が深く音楽や絵画はよく語るが
文芸は理解するに及ばず
繁盛期にはくしゃみを7回欠伸3回を日課とし
雑用には手を貸さず午後は虫と遊んでばかりいる

この世のほぼ全ての子守唄が彼の作であり
鼬によく騙されるが逆に狸を利用する事もある
匂いは全く感知出来ず
専ら口伝に頼る他ないのが現状
雨は己の肉体の一部と解釈し
そのためだろうか? 必要以上の干渉を嫌う

番になれた者はより豊かさを求め
独り身に帰せし者はより持論を掘り下げる
他人に話を合わせるのが上手く
相槌の中に時々土竜の紛れ込む
人は総じて四つん這いで歩きし生き物
前足は土を掘るか空を掘るかの違いのみで
優しさなんて習わしも本来は無かった筈だ

進みなさい
前に進みなさい
神にも見放され初めて綴れる言の葉ありて
風を祀れ、水を括れ
縁側に二足並んだ鼻緒の色に
妹は姉を慕い、姉は妹に涼を送る

土は見ている
今日も世界に学を届ける
その為だけに選ばれしその姿その形
ただし彼には「壁」という概念が存在しない
実は紛れ込むのは土竜だけではないのかも知れず
そうでない者等の代わりの役目も
その土竜が果たしているとしたら?

進みなさい
いいから前に進みなさい


自由詩 土竜 Copyright 妻咲邦香 2021-02-04 23:22:59
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