死ぬ男
ノボル

   私は
   死につつあった
   胸のあたりがすうすういった

   テーブルの上に残されたファイルや
   鳴りっぱなしの電話

   葉子の顔は
   私を覆ったままだ

   大丈夫
   家にお帰り

   古い友人が訪ねてきて
   私の名前を呼んだ
   呼んだのではないか

   遠くで
   ドアの閉まる音がする

   そのとたん
   私は
   何かを尋ね残したような気がしてならない

   ああ
   夜明けまでの永遠を
   いかにして生き延びよう

     *

   ずいぶん眠ったらしい
   看護婦の顔が
   間近に見えた

   葉子
   声は風にならない

   ばたばたと
   誰かが遠ざかる
   点滴の管が
   ひどく太い

     *

   私は
   死につつあった
   胸のあたりがひゅうひゅういった

   コンピュータのなかのいくつものマス目や
   並んだ数字

   朝から
   何台もの救急車がやって来た
   やって来ただろうか

   葉子の顔は
   私を覆ったままだ

   大丈夫
   家にお帰り

   そう
   そういえばお前に
   何か
   尋ねなければならない

   遠くで
   ドアの閉まる音がする

   闇が音をかき消していった


自由詩 死ぬ男 Copyright ノボル 2005-04-20 19:02:53
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