死ぬ男
ノボル
私は
死につつあった
胸のあたりがすうすういった
テーブルの上に残されたファイルや
鳴りっぱなしの電話
葉子の顔は
私を覆ったままだ
大丈夫
家にお帰り
古い友人が訪ねてきて
私の名前を呼んだ
呼んだのではないか
遠くで
ドアの閉まる音がする
そのとたん
私は
何かを尋ね残したような気がしてならない
ああ
夜明けまでの永遠を
いかにして生き延びよう
*
ずいぶん眠ったらしい
看護婦の顔が
間近に見えた
葉子
声は風にならない
ばたばたと
誰かが遠ざかる
点滴の管が
ひどく太い
*
私は
死につつあった
胸のあたりがひゅうひゅういった
コンピュータのなかのいくつものマス目や
並んだ数字
朝から
何台もの救急車がやって来た
やって来ただろうか
葉子の顔は
私を覆ったままだ
大丈夫
家にお帰り
そう
そういえばお前に
何か
尋ねなければならない
遠くで
ドアの閉まる音がする
闇が音をかき消していった