春、立つ
平井容子


1.春霞

まだ見ぬ窓は
美しいだけで意味を含まない
詩集のようでした
干からびた紅茶のつじつまが合うころ
存在はただ
うすぼんやりとした夕暮れをむかえ
ときに遠ざけたいほど臭かった

草木が萌える音はもはや吐き気に近く、間近で触れたまぶたは、夢のように冷たくはないかも


2.バブルティー(2)

忘れ形見みたいな嘘を数える模型部だけど
ひとりひとり
ちがった内臓をかくして笑っている

ときおり甘いのは気のせいで
気がつけばまた動悸する

急げこの矛盾を飲み干せや、尊し


3.500w、2分

冷蔵庫で眠りたいけど詰まっているから
脳が霜をこばむから
今日もむだにあたためて泣いている

まるでわたしだけが
世界中でたったひとりキスを知らないみたいに




自由詩 春、立つ Copyright 平井容子 2021-02-02 19:58:33縦
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