渚のリヴァイアサン
紀ノ川つかさ

見ろよ輝く海を
この青く澄んだ空を
次の大波が来たら
サーフボードに乗って
君は天国へ行くのさ
実際サーフボードなんかないけれど
ここに一本の注射がある
君を天国へ送ろう

君を連れた船旅は
素敵なものになるはずだった
ベッドで寝たきりの君
スタッフも万全だった
みんな優しく支えてた
言葉なんか交わさなくても
君も笑っていたっけ
あの恐ろしい嵐が来るまでは

島に流れ着いた時
君を含めみんな無事だった
幸い医薬品も一緒に
ここに流れ着いていた
だけど食料はなかった
そして動ける者はみんな
海岸を走り回って
食料を調達しようとした

しかしこの場所には
食料はほとんどなかった
魚も木も草も木の実も
食べられるものがぜんぜんない
ここから移動しなければ
しかし険しい道がある
危険な道もたくさんだ
君を運ぶことはできない


 僕達は考えた
 もし僕が君だったらと考えた
 このままここから動けないまま
 自分と共に全員が飢えて苦しみ
 やがて死を迎えるのか
 それはきっときっと
 君自身も
 君自身も
 君自身も
 望まないであろうと

見ろよ輝く海を
青く澄んだ空を
次の大波が来たら
サーフボードに乗って
君は天国へ行くのさ
実際サーフボードなんかないけれど
ここに一本の注射がある
君を天国へ送ろう

天国は苦しくなんかないぞ
天国で君は自由になれる
天国で走ることもできる
天国でモテることもできる
天国で温泉にも入れるぞ
天国でうまいもんいっぱい食え
そして天国で探してみてくれ
生まれ変わりのゲートを

 命は海から来たという
 海の底にはリヴァイアサンという
 怪物がいる
 君を見送る時
 君が笑ったような気がしたんだ
 気がしただけかもしれない
 何しろ僕の耳には
 海からの何かの叫び声が
 ずっと聞こえていたから
 そいつは叫んでいたんだ
 生きのびろ
 生きのびろと



自由詩 渚のリヴァイアサン Copyright 紀ノ川つかさ 2021-01-30 22:39:08
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