うつくしいもの
道草次郎
貧しいすきとおるようなものが欲しくてさがしまわり、けっきょく無くって、すごすごと帰ってきてみた。そしたら、ぼくのふるさとの図書館(とても腹ぺこなちっちゃな図書館) に、みつけた。
その、薄くてかよわい本のこと教えて。うん。その本はレンゲショウマのうつむいた顔やコスモスのほそい首筋、それから弾んだ雨粒みたいな詩のこぼれ。やせた椛のほんのりと酔いさしの頬、もやにとらわれたたずむだけたたずんだ森、すみれいろの天。
どこをとっても黒雲の予感だらけながら、また、そこから落する一粒の物語は涙と呼ばれもするけれど。
けれども、けれどもそれは、しその葉の凛で。やっぱりまばゆく、あかるくって。
ぼくはこの本のなまえをいわないでおこう。
かえってこんな時勢だからかな、乏しい書棚のそこ深くあったをみつけた幸い。ぶ厚なのやたくさんな繋がりのたくさんな声やらに、いくぶん疲れはきていたからか。
今この胸の大陸から、なだらかな流出はとまらない。うつくしいもの、それがこの本の招待状であったなら。梢の栗鼠のあさのしっぽのよう、それは、まるで。
うん、祈。