最寄り駅から電車に乗って
こたきひろし

最寄り駅から電車に乗って
その朝妻と二人で東京ヘでかけた
各駅止まりの普通電車さ

いそいでいた訳じゃない
たいした用事でもなかった

遊びがてらに銀座まで宝籤を買いに行ったんだよ
もちろん当たり籤買いに行ったんじゃないよ
世間一般的に
夢を買いに行ったんだよ

どうせはずれるんだからさ
わざわざ東京くんだりまで行かなくても近くでいいんじゃないか
俺は何度も妻には言ったんだけどさ 
どうしても聞き入れてくれなかった

正直なところは俺は宝籤なんて買いたくなかったんだ
金で買える夢なんていらないし
もし運わるく当たってしまったら家族崩壊するんじゃないかって
思うからさ

俺は夢のような大金なんて怖くて触れないよ
家族四人ちょっとした贅沢が毎日できる位に
金が手に入ればそれでいいんだよ

もちろんそれは真面目に仕事して働いて
その対価として毎月口座に振り込まれる金さ
俺は安定と安心を保障してくれる職場が欲しいんだよ

だけどさ
俺にはそれを手に入れられる肝心な能力が著しく不足しているんだ
人生の宝籤最初から外ればかり引いて来てしまったんだ

そんな運のない甲斐性なしに
宝籤なんて当たる筈ないさ

だけどさ世間一般的にはそんな甲斐性なしだからこそ
一夜にして億万長者になる幸運手に入れられるみたいだな

だって生まれつきの
折り紙付きの大金持ちには
宝籤で買える夢なんて必要ないだろ

有り余る金に埋もれて
贅沢三昧出来るんだからな

結局宝籤なんて
貧乏人を夢の餌で釣って
金をかき集めてその何割かを当選金にして
残りはどこかで誰かに吸い上げられる
だけの話さ

その朝最寄り駅から
妻と二人で東京にでかけた
各駅停車の普通電車で






自由詩 最寄り駅から電車に乗って Copyright こたきひろし 2021-01-27 00:27:43
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