好きに羽ばたけばいい、こんな時間じゃ誰も見ていない
ホロウ・シカエルボク


煤け、捻れ、特に堪え切れぬことなどないのに、やり切れぬ思いで、真実同士が食い違い、どこにも落とす場所がない、こちらはあればかり見て、あちらはこればかり見る、交わらないことの為に牙を剥き出しにする、目玉はあるがまともに見ていることはあまりない、内容のない尊厳は滅法始末が悪い、だけど、御覧、目立ったもん勝ち、どんなに愚かしいことだって、自信満々でやっちまえば万事快調って具合で、目先のあれこればかり拾って、それだけの生きものになっていくやつら、肩を叩いておまじない、簡単な世界こそ確固たる世界、何故かって?簡単過ぎて考える必要がない、貨幣価値と同じ、並べて比べてのべつ幕なし、先に喋った方の勝ち、椅子取りゲームにビーチフラッグ、手に取る手段は皆一緒、あなた流石のエキストラ、台詞はいつでも同じ一言、幕間のショウで結構、こちとら見飽きちゃって、凡庸さと防空壕、逃げ込む先としちゃ妥当かもね、たとえそのあと蒸し焼きになってもさ、アーハー、リクエストお願いします、いま巷で一度も流れたことがないナンバーを、なに、ない?結構、失礼しました、いや、ニーズってそういうもんだよね、幸せですか?特別には、特別そう定義するようなものはなにも、だけど不幸じゃない、それだけは確か、筋書なんてない方がリアルじゃん、でもあんたはそれじゃあ嫌なんだよね?うん、そしたらね、あっちの、標識がたくさん並んでる道へ行くといいよ、必ずどこかへ辿り着くから、そういうことなんだろ、お前?ごめん、飲物空になっちゃったからお代わり頂戴、トイレ行ってくる、ジロジロジロジロジロー立便器は男根主義の象徴、撒き散らすマッチョイズム、気に入らんね、だけど個室はもうずっと使用中、中でなにやってるかなんて詮索するだけ無駄、公共の便所なんてこんな時間にゃまともな使い方してるやつはいない、知らん、勝手に死ね、勝手に屍、ゴダールっぽく言ってな、くだらないなってな、こんなことで笑ってくれるやつ、嫌いじゃないけどな、光に集まる虫は孤独を受け入れるのが下手、だから焼け落ちて終わり、そういう死骸は見られたもんじゃない、棺桶の中なんか覗かせてもらえない、だけど神格化するよね、そういうやつらって、くだらない、でもわからなくもない、死んじまえば関係のないことだしね、死に方なんて、時々目を開けたまま夢を見てる、いや、厭世とか逃避とかじゃなくて、爪を噛む癖みたいなもん、ちょっと昔のことや、ちょっと先のことかもしれない夢、そこにはなんにもなくていい、ここにもなんにもないように、ん、あんた誰、俺に話しかけてるの?陳腐な話なら辞退するよ、ただでさえミラーボールが煩いんだから、どうしてなんだか、こんなところに来ようと思ったのは、最近観た映画のせいかもしれない、マイケル・J・フォックス、もうあんまり動けないんだってね、人生ってわからんもんだね、ビデオテープ巻き戻すあの音好きだった、家庭的エンドロールって感じしたね、お代わり、ちょっとトイレ、個室まだ塞がってる、使うあてもないけれど、ジロジロジロ、頻繁に曝け出すのに毎度随分な量、なんだか合点がいかないね、夜を、目を覚まして流していると、なにかを数えている気がする、それは現実的に存在する単位ではなく、現実的に存在する方法ではなく、なにか、大きく枠から逸れたー店の奥からスライド錠が軋む音、どすん、176センチ70キロくらいかな、若い男の派手な悲鳴、死んでる、死んでる、首を切って…まさかそんな落ちとはね、我を忘れた結果ではなく、忘れられなかった結果ということか、ウトウトしてたやつらがガチョウの群れみたいに騒ぎ出す、アイフォンやアンドロイドのカシャー、カシャー、まともな誰かが警察を呼んでる、どうする?面倒臭い、金を払って、出る、ライトが点滅しながらやって来る、正義の味方のご登場、ヒャッホー、足元が覚束ない、だけどどうってことはない、足元なんかいまだけの話、あー…どんなんでもいい、水が、飲みたいな、コンビニエンスストアを探す、光を目指してー違うよ、俺は虫じゃない、これは欲求の為なんだぜ、レジ、金、釣り、バイ…大昔からある取引、システムって大事だよ、でもそれは誰を何処にも連れていくことはない、それはここにあるだけ、いつだってここにあるだけ、光のない夜の中に行こうよ、わけがわからないようなことが、本当はすごく確かなことだってケースも割とあるんだぜ…。



自由詩 好きに羽ばたけばいい、こんな時間じゃ誰も見ていない Copyright ホロウ・シカエルボク 2021-01-25 23:46:35
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