若い人の未来
こたきひろし

若い人の行くてには輝かしい未来が待ってる なんて
いったいどこの詐欺師が言ったんだか

大都会東京 その中心から外れて千葉に近い街だった
総武沿線駅の南口だったか北口だったかもう思い出せなくなってる
駅を出て一方通行の道を十五分位歩く 沿道に軒先を並べる商店の匂いは下町特有のそれだった

とは言っても 地方の山間から上京して間もなかった俺に 山の手と下町を嗅ぎ分ける鼻なんてある訳なかった
ただ 田舎に近い匂いが感じられたからそう思えただけだった

八百屋があってその先に花屋があった
花屋の先に靴屋があって隣に婦人服の店 その先にあった洋食屋 そこが俺が住む込みで働いていた店だった

店のマスターは俺より六歳位上だった
中学を出ると上京して 大きなレストランで修行してから独立開店したらしい
らしいであって 詳細は知らなかった
童顔で小太りで身長は低かった 人懐っこくてそれでいて人心を掌握する強さを兼ね備えていた

けしてイケメンじゃないのに妙におんなの人に好かれるタイプだった
よく言われる 母性本能を刺激する男だったのだ

だから次から次とおんなの人がよってくる

強くて魅力を持った雄の周りに雌が集まる
弱くて魅力を持たない雄を雌は避けて遠ざかる
動物界の厳然とした事実は人間も変わる事がない

学校では教えて貰えなかった現実を目の当たりにして 俺は少なからず嫉妬の炎を燃やした

嫉妬の炎を不完全に燃焼させたに過ぎなかった

俺は三年目に夢破れて東京に負けた

若い人の行くてには輝かしい未来が待ってるなんて
どこの詐欺師が言ったんだよ

許せねぇな


自由詩 若い人の未来 Copyright こたきひろし 2021-01-22 21:59:37
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