残響
道草次郎

 耳朶の下に隠れていた子鬼がふいに現れPCをシャットダウンさせてしまう。ふり向くと堆く積まれた原稿用紙がある。どこからか蝿が飛んできて、用紙のマスの中に不器用に死んでいく。促されるようにCDの記録層に爪を立て、ライターで居間の液晶TVの画面を炙る。脳の鎧戸にぶつかるにぎやかな電子。身体のギアが壊れて笑い出す。ピュタゴラスの三角形をそっと宙に描いて床に大地の文脈を記すと、懐かしい未来都市がよみがえる。

 何百光年の彼方から静かにとどくスライスされた光の郷愁。

 しょぼくれた朝を向かえるためにふにゃふにゃの安眠枕が用意され、心は指先ほどの道にしかもう踏み出せない。のしかかる羽の軽やかさに、人知れず呻きをあげるそんな昼下がり。死でいっぱいの空に呼びかけても、応えるのはもう漂白されたセピアの雲に似た鈍い反響だけ。

 くらしの荒野に咲き零れる悔恨と過度に覗かれた虚空の残骸。

 



自由詩 残響 Copyright 道草次郎 2021-01-18 22:59:07
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