かけらになる
flygande

グザヴィエドランの映画みたく


君に贈ったプレゼントと


君からもらったプレゼントが


最後には


ぜんぶ空から降ってくる


ひとりきりの


水曜の


あかるいお葬式








浜辺には


海のかけら


青いかけら


緑がかった水の色のかけら


流れ着く


灰色の曇り空のかけら


くすんだイエローの


指先のたまご


青と白の


バスタイルのかけら


たぶん異国の


コーラ瓶のかけら








体より冷たい水に


触れようとして


ハンカチ忘れたっけって


コートの袖に


手を隠す








呼び出して


応えてくれるなら


まだ呼ぶ声も


応えるための声もあるのに

















帰り道


丘の斜面に


一羽のカラスが休んでいて








その眼があまりに青いから


君の小さな


頭蓋骨の中に


ほんとうは


世界のほんとうがあって


僕たちはその眼が映し出した


ただの感覚


だったのかもしれないと


思った








かかとを引きずる


歩き方のせいで


跳ねた道の砂利が


わけもなく用水路に落ちる


鏡は揺れ


また立ちすくむ


畑の脇の


葉を落とした柿木の


向こうに広がる


冬の午後








この町はずっと


音がしている


だれが歌っている訳でも


ない歌

















  ねえ席が空いているよ


  だから座ろう


水たまりのベンチ


    だれが座っていたんだろう


    どこに行ってしまったのかな


裾がすこし濡れてしまっても


  ここから虹が見えるよ


いつも光を背に


歩いている者たちの杖


    もう替えはないの?


  この手をしっかり


  握ってね


  離さないでね


    君は転ばない?


  わたしは大丈夫!








土は柔らかいから


膝をなんども


汚しながらこの丘を登って


はじめて見たような


でもいつか来たことのある


赤い看板のバス停


薄い青空を


手の甲でそっと


割れないように撫でて








    体や心に


    替えがあったなら


    春のこと


    好きになれなかったかもしれない








命の音


うるさくて


耳を塞いだ


















手を伸ばせば


触れるだけの宇宙








冷たい夜の


吹雪の中で


君の体に


叩きつけられる


氷の飛礫








もし体が


冷たくても


触れて確かめたくなるような


冷たさであれたら


思わず触れてしまうような


冷たさであれたら

















(半分になる








(半分になる


(半分のまた


(半分になる








(半分の半分に


(そしてまた半分になる


(小さく


(小さく


(もうこれ以上


(小さくなれなくなったものたち


かけらになる








たとえば海の


青い


緑がかった水の色の


灰色の曇り空の


くすんだイエローの


指先のたまごの


青と白の


バスタイルの


たぶん異国のコーラ瓶の








君の体は心を


守るために引き裂かれ


心は魂を


守るために引き裂かれ


今度は何を


守るために魂が引き裂かれるのだろう

















積み上げられた


みかんの箱を通り過ぎ


もうじき落ちる


椿の花を通り過ぎ


坂道を登り


暇な猫の


気まぐれな案内に導かれ


歩き着いた高台からは


あの海が見えた








時刻はほんの少し


橙の差した金色


バーテンダーの神様が


逆さまにしたカクテルみたいに


光も


雲も


混じり合うことなく


静かに沈んでいて

















いつか


かけらになって


浜辺で出会えたら


水に濡れた


この冷たい


手のひらで包んで


一緒には行けなかった場所へ


連れて行ってあげよう








    音のない


    けれどほんとうはにぎやかな海


    君にも聞こえたの?








僕は


僕を探さない人と生きていく


喫水線が掠れても


まだ


息のできる空路を見つけて

















泣かないで


ポケットの中の


思い出のかけらを握りしめれば


きっとまた海が


満ちていくから






























自由詩 かけらになる Copyright flygande 2021-01-18 03:02:07
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