かけらになる
flygande
グザヴィエドランの映画みたく
君に贈ったプレゼントと
君からもらったプレゼントが
最後には
ぜんぶ空から降ってくる
ひとりきりの
水曜の
あかるいお葬式
浜辺には
海のかけら
青いかけら
緑がかった水の色のかけら
流れ着く
灰色の曇り空のかけら
くすんだイエローの
指先のたまご
青と白の
バスタイルのかけら
たぶん異国の
コーラ瓶のかけら
体より冷たい水に
触れようとして
ハンカチ忘れたっけって
コートの袖に
手を隠す
呼び出して
応えてくれるなら
まだ呼ぶ声も
応えるための声もあるのに
*
帰り道
丘の斜面に
一羽のカラスが休んでいて
その眼があまりに青いから
君の小さな
頭蓋骨の中に
ほんとうは
世界のほんとうがあって
僕たちはその眼が映し出した
ただの感覚
だったのかもしれないと
思った
かかとを引きずる
歩き方のせいで
跳ねた道の砂利が
わけもなく用水路に落ちる
鏡は揺れ
また立ちすくむ
畑の脇の
葉を落とした柿木の
向こうに広がる
冬の午後
この町はずっと
音がしている
だれが歌っている訳でも
ない歌
*
ねえ席が空いているよ
だから座ろう
水たまりのベンチ
だれが座っていたんだろう
どこに行ってしまったのかな
裾がすこし濡れてしまっても
ここから虹が見えるよ
いつも光を背に
歩いている者たちの杖
もう替えはないの?
この手をしっかり
握ってね
離さないでね
君は転ばない?
わたしは大丈夫!
土は柔らかいから
膝をなんども
汚しながらこの丘を登って
はじめて見たような
でもいつか来たことのある
赤い看板のバス停
薄い青空を
手の甲でそっと
割れないように撫でて
体や心に
替えがあったなら
春のこと
好きになれなかったかもしれない
命の音
うるさくて
耳を塞いだ
*
手を伸ばせば
触れるだけの宇宙
冷たい夜の
吹雪の中で
君の体に
叩きつけられる
氷の飛礫
もし体が
冷たくても
触れて確かめたくなるような
冷たさであれたら
思わず触れてしまうような
冷たさであれたら
*
(半分になる
(半分になる
(半分のまた
(半分になる
(半分の半分に
(そしてまた半分になる
(小さく
(小さく
(もうこれ以上
(小さくなれなくなったものたち
かけらになる
たとえば海の
青い
緑がかった水の色の
灰色の曇り空の
くすんだイエローの
指先のたまごの
青と白の
バスタイルの
たぶん異国のコーラ瓶の
君の体は心を
守るために引き裂かれ
心は魂を
守るために引き裂かれ
今度は何を
守るために魂が引き裂かれるのだろう
*
積み上げられた
みかんの箱を通り過ぎ
もうじき落ちる
椿の花を通り過ぎ
坂道を登り
暇な猫の
気まぐれな案内に導かれ
歩き着いた高台からは
あの海が見えた
時刻はほんの少し
橙の差した金色
バーテンダーの神様が
逆さまにしたカクテルみたいに
光も
雲も
混じり合うことなく
静かに沈んでいて
いつか
かけらになって
浜辺で出会えたら
水に濡れた
この冷たい
手のひらで包んで
一緒には行けなかった場所へ
連れて行ってあげよう
音のない
けれどほんとうはにぎやかな海
君にも聞こえたの?
僕は
僕を探さない人と生きていく
喫水線が掠れても
まだ
息のできる空路を見つけて
泣かないで
ポケットの中の
思い出のかけらを握りしめれば
きっとまた海が
満ちていくから