銀焔絶歌
道草次郎

銀焔
このように堕することはたやすい
いつだってたやすいものだ

天の星に看取られ
それでもなお辺獄の河を下っていくことは
或いは想定されはしたが
あぶくとともに沈んでゆくのが
こんなにも苦しいことと知ってからは
知らなければどんなに良かったか
そればかりを思い
投錨された意識を
イタチザメに喰わせてしまいたい一心だった

雪原
くれないの実は
したたる冬の鮮血なのだ
たとえば
裏のナナカマドがそれだ
はるばる
はるばると
這いつくばって来てはみたものの
まだ信濃川だ
どうにも青鷺ばかりの目立つ
青黒い流れの鬱血の風だ

死相
つくづく幽冥の地を脳裏にやどし
徹底武装の虚無を手に
何かの刃物を隠しつつ
隠したものをみうしない
さがしていてもさがす手もじつは無くて
ならば
さがした痕跡は
悪夢のようなものに相違なく
まるで
魘されただけの朝の空

蠱惑
冬の中には冬の虫
土の海には土の月
蛆を頬張る面影を銀河彼方か遺伝子に
写しながらの綱渡り
ゆうやけこやけを聴きながら
死んだ子猫を抱くように
今日も
窓辺を集めて来ては
うらなっている

おお
どうにかなりたいとか
どうにもならないとかの
色々の
嘘やまことやその真ん中や
とにかく人間というのは渦巻く砂粒のよう
信じるとか信じぬとか
裏切るとか裏切らぬとか
そういうことは春の海
少なくともは
ウスバカゲロウ泡沫の夢

そうだ
たしかにこうしていると
堕することの当たり前が身にしみて
それはもはや疑われない
けれどもこの何もかもが浮雲で
海月のようなものだから
やっぱりなんにもならないと
答えを押し遣る波のような腕も
あるはあるのだ

なかんずく
透明なものは失われはした
だから
この打ち続く瀬戸際も
しらじらとした東雲やとげとげした柊
くらくらする拍動も暗い森に迷い込んで久しい
この陳述の裸子植物は白亜層から現れて
漸新世の篝火を背に立っている
そうして
こんにちという名の
人類期中葉に展開した
擾々たる生態系でもあるだろう

行先は分からない
行先はあまりにも分からない
素晴らしい者達が街を飛んだり
太陽の下でたくさんの
原子をあつめたり増やしたり育てたりするだろう
そうなることは
本当は悲しい事でもあろうが
虚しい心映えしか持たない燠には
そうなることを信じ
そうなるようになって行くことの他はないと思う

成程
体を燃やさなければならない
とも思うが
体自身の為にそう思うが
それは正しい道なのか
分からない
分からないけれど
分かるまでそれまでは
心を切り刻まなければならないだろうことのみが
わかる
心自身に誓って
そう
分かり切るきる

止風
それだけが
それのみが
ただ一つ
ただ一つの
幸せなのかも知れないと
そう
思ったりもして
胡乱な邪気
瞑目し宙へ祓い

銀焔、









自由詩 銀焔絶歌 Copyright 道草次郎 2021-01-12 23:22:23
notebook Home