疾走する砂礫へ
道草次郎
とおく、とほうもなく、微笑して、口をわらない何かがあって。カーテン留めを はずす事にさえ、充分満足できる何かがあって。そういうものをずっとさがしてきた気がする。そしてずっと見つからなかった気がする。
千の指南書は空っぽの器のことを云い、幾つかの調書はキリストは詩人だったと謳った。ヨーガとトレイルランは称揚され、血中の化学物質の増減のメロディーも聴こえた。ベートヴェンもゴッホも降りかかる火の粉にしては懐かしかった。荒野のボロ屋で辺獄の猫を膝上に乗せて過ごした。
とおい、とほうもない、石。
或いはそれだけが、まさにそれだったろうか。カーブする海岸線の追随をことごとく置き去りにし、ガソリン車は海と陸とのあいだにそなわる礫を、磔と誤読して疾ってゆく。